オンライン診療を検証!ICTで医療機関は変われるのか?


 医療に限らず、最近のICT(情報通信技術)の発展には目を見張るものがあります。特に医療業界における医療機器においては、病気の診断・治療の分野では目まぐるしい発展を遂げているといえるでしょう。
例えば、CT・MRIなどのモダリティ(医用画像を撮影する装置)からの画像保存システム(PACS)と電子カルテの連携など、あらゆる医療現場でICTが活用されています。さらに、このような院内ネットワークだけではなく、外部のインターネットと融合させた医療にも注目が集まっています。

医療政策の進むべき方向

2025年に完結とされる医療政策

 ご存じのように、戦後のベビーブームに生まれた団塊の世代が年齢を重ね、高齢化社会を築き始めています。そのため医療費が年々増大し、医療費を捻出する健康保険組合の経営がひっ迫しています。 厚生労働省は、これらの問題を解決するため2025年までに、住んでいる地域で医療・介護を完結するための「地域包括ケアシステム」を提唱しています。このシステムは、地域における中核病院を中心に、病院・診療所・介護施設が連携し、各地域において住民の健康管理を完結させることを目的としています。 そのためには、各病院の病床機能や医療計画を見直し、病院ではなく自宅で安心して医療が受けられる方向性に向かっていくのが理想と考えられています。

オンライン診療とは?

そのような流れのなか、医療に関するICTを活用した「クラウドコンピューティング」における試みとして、平成30年度診療報酬に盛り込まれたのが「オンライン診療」です。

平成30年度診療報酬におけるオンライン診療

 オンライン診療は、通信技術の発達により平成30年度の診療報酬に新設された新しい診療科目です。従来でも、初診の患者に対して医学的に必要な項目を、医師が電話などで指示する「電話等による再診」は認められてきました。 しかし、今回の改正で、さらにもう一歩進歩した「リアルタイムでのビデオ通話」と位置付けたのが、オンライン診療です。今回は、医師と患者間で行われるオンライン診療について、話を進めていきます。 ポイントは2点です。

  • 情報通信機器を用いた診察:外来・在宅に準じた対面での診察に準じて診察を行う。
  • 情報通信機器を用いた遠隔モニタリング:ペースメーカーを使用している患者、あるいは在宅酸素療法・CPAPなどのモニタリングに情報通信機器等を用いて医学的な指導を行う。

今回の診療報酬ではこの2点を考慮し、以下のように算定できることとなりました。

  • オンライン診療 70点
  • オンライン医学管理料 100点
  • 在宅時医学総合管理料 100点
  • 在宅酸素療法指導管理料 遠隔モニタリング加算 150点
  • 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 遠隔モニタリング加算 150点

オンライン診療の今後の展望・課題

 オンライン診療は、歩行が困難・多忙な勤労者など通院が困難な患者の医学的管理や、へき地などの医師不足を補うという意味では、非常に将来性がある方法と考えられます。 しかし、情報通信機器を介しての診察が、医師法20条に抵触しているか否かという問題に関しては、いまだに議論が絶えないようです。 また、地域により光ケーブルなどの情報通信インフラが整っていないため、導入できない場合もあります。

 さらに、診療報酬に対してかかる通信情報機器の導入コストは、経営的側面においても無視できません。 いずれにしても、一枚岩では解決できない案件も含んでのスタートであるといえるでしょう。

医療機関が留意すべき点

 前提となる「初診は必ず対面診察」というルールは、電話での再診と変わりませんが、特に診療所においては下記のような留意点が挙げられます。

  • 算定条件・施設基準のハードルが高い
  • 医学管理料は限定された疾患に関してのみの算定
  • 3ヵ月連続の算定ができない
  • オンライン診療はレセプト(診療報酬明細書)全体の1割以内にとどめる
  • オンライン診療で算定されると、外来診療の医学管理料は算定できない

以上をクリアして、各医療機関が導入に踏みきるか、経営的な判断が必要になるでしょう。

オンライン診療におけるガイドライン

 オンライン診療において最も重要なことは、全国どの地域でも同じレベルの高い情報セキュリティを配慮しながら、診療ができるかという点にかかっています。 情報セキュリティ対策に関して、厚生労働省・総務省・経済産業省が出している4つのガイドラインのことを「3省4ガイドライン」と呼んでいます。クラウド環境にて医療情報システムを提供する事業者は、これらのガイドラインすべての対策項目をクリアしている必要があります。

  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版」
  • 総務省「ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン」
  • 総務省「ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン 第1.1版」
  • 経済産業省「医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン」

 ベースになっているのが、厚生労働省・総務省が作成したガイドラインです。医療データにかかわる事業者の責任分担・安全管理が明文化され、医療分野に限らず情報処理担当者が実施すべき点を定めているのが特徴です。 さらに経済産業省のガイドラインは、厚生労働省・総務省より一歩進めて、医療情報を扱う情報処理事業者担当者向けへの安全管理ガイドラインを定めており、かなり厳しいセキュリティレベルを問われる内容になっています。

 このような厳格な条件のなか、オンライン診療機器を導入・開発するメーカーは、これまで培ったノウハウをいかし、オンライン診療のための情報通信機器を開発することになります。つまり、3省庁が定めた4つのガイドラインをすべてクリアした事業者が医療機関のオンライン診療に参入できる仕組みなのです。

医療機関にICT導入が普及する?

医療機関のデジタルIQとICT普及

 CT・MRIなどの画像処理を中心としたICTの習得は、デジタル技術にたけた医療技術者が先行しています。しかし、医療機関の職員全体のデジタルIQが高いとは限りません。 特に、診療所レベルではその差は顕著で、優秀なエンジニアを擁する事業者と医療機関が対等に話ができる段階に達していません。今後は、医療機関のデジタルIQを向上させる努力が必要になってくるでしょう。このような状況を改善しなければ、ICT導入は「絵に描いた餅」になりかねません。

ICTへの設備投資はどうする?

 資金力の乏しい診療所では、デジタル機器の新規購入・リースに関しても消極的になっています。以前、電子カルテを普及させようとしたときも、補助金を導入しても切り替えに踏みきれない医療機関も多かったようです。 今回のオンライン診療に関しても、スタート当初としては外来診療の補助的な側面もあり、導入に慎重になる医療機関も多いのではないでしょうか。

まとめ

 今後の医療政策は、病院から在宅医療にシフトし、外来診療から訪問診療やオンライン診療への移行が大きなポイントになります。そのときに威力を発揮するのは、高度の情報セキュリティと低コストを実現した「クラウドコンピューティング」でしょう。しかし、個人情報である診療カルテをクラウド化するには、3省4ガイドラインをクリアした事業者の協力が望まれます。
参考:

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