医療IT最前線 第43回 医療分野のシステム開発は新たなステージへ

クラウドとタブレットが医療IT業界への参入を加速

近年、医療IT(ICT)業界に新規参入する企業が増加傾向にあります。

その背景の1つに、診療録などの保存を行う場所に関する法律が2010年に改正され、医療分野でクラウドコンピューティングの技術が解禁になったことが挙げられます。そして、アップル社の「iPad」をはじめとするタブレットが急速に普及している現状を受けて、医療分野における新たなニーズが生まれてきていることも大きいといえるでしょう。

今回は、医療における最新の開発トレンドを現場のニーズを交えて紹介します。

「患者とのコミュニケーションを緊密にしたい」

医療機関と患者さんとの最初の接点として誰もが思い浮かべるのは「問診票」ではないでしょうか。患者さんが何の目的で医療機関に来たのか、患者さんの病状はどのようなものなのか、アレルギーや既往歴はないかなど。患者さん自らが申告するのが問診票の役割です。

医療機関はこれらの情報を基に、さらにヒアリングや検査を行い、病気の原因を探っていきます。この問診票の仕組みをデジタル化したのが「問診票アプリ」です。いまでは、この問診票の内容を自動分析し、診療に活かそうという取り組みも出てきています。

「患者さんはどのルートで来院するかを知りたい」

患者さんがどのようなルート(Webサイト、駅看板、口コミなど)を介して来院につながったのかを分析する仕組みも、美容外科などの医療機関を中心に導入が進んでいます。これは通常、医療機関のWebサイトや問診票などからアンケートを取る仕組みを活用して実現しています。今後は患者満足度調査なども積極的に利用する動きも出ていくことでしょう。

「患者さんの自宅でのバイタルを診療に活用したい」

体重計や血圧計、活動量計などの患者宅で利用できる機器のIoT化が進んでいます。BlutoothやWifiなどで自動でデータを取り込むことが可能な機器が増えているのです。こういった来院患者が自宅で入力した情報を医療機関で活用したいというニーズは多くあります。この分野は「PHR(Personal Health Record)」と呼ばれ、今後発展していく可能性が大いにあります。

「多職種間で情報共有をしたい」

2025年の地域包括ケアシステム完成に向けて、様々な地域での取り組みが始まっています。地域包括ケアとは、地域全体を1つの大きな病院に見立て、地域の医療機関が相互に連携して地域住民への医療サービスを提供する仕組みです。この考え方の下では、連携(ネットワーク)が重要になてきます。こうした方向性を受けて、在宅医療分野での多職種間の連携、地域医療では地域内での医療機関同士の連携が活発化しています。

この連携の仕組みにおいては、ICT技術が大いに活用できると考えられます。既にさまざまな企業が関連サービスを開始しています。これら連携システムの開発においては、以下の3点を最低限押さえることが大切です。 (1)誰もが簡単に利用できること (2)セキュリティが十分に配慮されていること (3)既存システムとの連携が容易であること

「経営データを管理・分析したい」

医療分野の開発トレンドの1つに「データマイニング」が挙げられます。データマイニングとは、統計やパターン認識、AI(人工知能)など、データ解析の技法を大量のデータに適用することです。電子カルテなどに収載されているデータをマイニングすることで、新たなイノベーションが生まれると期待されているのです。

医療分野におけるデータマイニングの代表例としては、DPC(診断群分類包括評価)制度で収集するデータのマイニングを挙げることができます。DPCデータマイニングの活用は大規模病院が先行していますが、今後は中小病院や診療所なども活用することが予想されます。 既存の電子カルテの情報をうまく引き出し、分析、加工できるデータマイニングシステムは、今後の注目分野です。導入する医療機関では、リアルタイムに経営指標やアウトカムが作り出せるようになることを期待しているようです。

このように、データを入力するシステムとしての電子カルテが一般的になるにつれて、そのデータと連携したり、分析したりして新たなイノベーションを起こそうとする動きが活発化しています。

(2018年05月07日)

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