相続に備えて、家族に財産を贈与しているという話をよく耳にするようになりました。贈与税の非課税枠を無駄にしないためにも、とりあえず現金贈与をしておけばよいでしょうか。

A.財産だけの贈与ではなく、想いが伝わるようにすることが、まず大切ではないでしょうか。

●税制上の優遇措置

近年の税制改正において、相続税は税額が高くなる傾向にあるのに対し、贈与税は税額が低くなる傾向にあります。

ご存知のとおり、相続税法の改正により2015年から、基礎控除額が「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」から、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」に変更となっています。これまで相続税の範囲外だった相続についても、相続税がかかるケースが増えることになりました。

一方、2014年までは贈与する人が誰であっても贈与税率は原則同じでしたが、税制改正により2015年からは、贈与を受ける人が20歳以上でかつ自身の祖父母や親から財産をもらう場合であれば、一定の要件のもと贈与税の税率が低くなる場合があります。

このように、親世代から子世代、孫世代へ生前に財産を渡すことに税制上の優遇措置を設けるなど、消費を促す傾向にあります。それに伴い、近年、贈与の活用が広がっているという実感があります。

贈与される財産は、現金・不動産・株式・保険など多岐にわたります。将来を見据えての相続対策や、資産を活用して欲しいという思いから、多くの先生が、お子様またはお孫様にさまざまな贈与をされています。

●「願い」をこめた贈与

ところで、贈与を受ける側の気持ちになってみるといかがでしょうか。

ある先生が、お孫様に現金贈与をされたことがあります。贈与税申告書の調印の際にお聞きしたのですが、実は贈与にあたって、お孫様の両親から大変に怒られたのだそうです。「大学生に現金を贈与して、教育に悪いじゃないか。迷惑だ」こう言われてしまったのです。

先生はハッとされました。良かれと思って考えた贈与でしたが、確かに現金の贈与は、長い目で見るとお孫さんのためにならないのかもしれません。先生は、いたく反省されました。

その後、私も呼ばれ、先生とお孫様のご両親と話し合いをして、お孫様ご本人にとって一番相応しい贈与の方法を検討しました。

結果、翌年以降は、小さい金額の株式を複数銘柄贈与することになりました。なぜ株式を、しかも複数銘柄贈与するのかと言えば、株式を所有することで、その企業の経営状況に興味を持ち、経済に関心を持つきっかけになって欲しいと考えたからです。

翌年移行も現金贈与されると思っていたお孫様は、最初は戸惑われたようです。先生は、何故現金ではなくて株式を贈与するのか、どういった願いが込められているのかを説明されました。お孫様もすぐに理解され、祖父である先生やご両親の思いに、大変喜ばれたそうです。

私は、なるほどと思いました。「贈与」とは、ただ単に現金や株式を渡すだけの話ではないのです。想いも一緒に贈ってこそ、初めて贈与だと言えるのでしょう。財産だけの贈与になっていないか。願いや期待が伝わる贈与になっているか。ほかのお客様でも、ぜひご一緒に検討したいと思いました。

(2020年7月度編集 日本経営ウィル税理士法人)