現在、息子は大学病院で勤務医として働いています。将来は診療所を承継してほしいと考えていますが、 離婚した前妻との間にも子供がいます。きちんと話し合ったことはありませんが、兄弟で揉めることがないようにというのが、私の願いです。

A.被相続人であるご本人の意思を「遺言」として表明しておきましょう。

最近、遺産相続に関するご相談が明らかに増えていると感じます。背景には税制改正があるのでしょう。

平成27年1月1日以降の相続については基礎控除額が引き下げられ(3,000万円+600万円×法定相続人の数)、これによって統計上も顕著な影響が出ているようです。メディアでも取り上げられることが多くなり、「自分の場合はどうなるのだろう」とご関心を持たれる方が増えたのではないでしょうか。

しかし、相続税額がいくらになるかというご相談よりも、まず多いのは、「円満に相続してもらうにはどうしたらよいか」というご相談です。

財産はすべて均等に分割できるものではありません。誰に生活の面倒を見てもらっているとか、家は誰が引き継ぐのか、事業を誰が継承するのか、自宅の購入資金や多額の教育費を負担した、遺された配偶者の面倒を誰がみてくれるのかなど考えると、平等な分割をすることは不可能です。

一方の財産を受け継がれる方々にも、それぞれ思いがあります。自分だけの思いではない場合もあります。ですので、放っておけば「相続とは揉めるもの」なのです。それが表面化すれば、いわゆる「争続」になります。それぞれがお互いに遠慮しあって、少しでも円滑・円満に進めるには、どうすればよいか・・・。

それは、受け継がれる方のそれぞれの思いの前に、まずは被相続人であるご本人の意思がどうなのか、これを表明しておく必要があるのだと考えます。いわゆる遺言です。

財産の相続以上に重要なこと

意思を表明することにより、ご遺族もまずはその思いを尊重して話し合いを進めることができます。しかし、遺言書は思いを書けばよいというものではありません。

例えば、遺言には「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の三種類がありますが、自筆証書遺言は一番手軽ではありますが、有効にするためには裁判所の検認が必要です。秘密証書遺言は、遺言書の存在を公証人に伝えているだけで、保管は自分自身で行います。紛失する恐れがありますし、自筆証書遺言と同じように裁判所の検認が必要になります。

公正証書遺言は費用がかかりますが、相続発生後の手続きは容易で、円滑に相続手続きを進めることができます。実際に公正証書遺言書を作成される場合には、どのような思いを持ってこの遺言を遺されるのか、熟慮に熟慮を重ねられるものです。遺留分にももちろん留意します。そのためには、相続財産がどれくらいの評価になるのかシミュレーションすることになります。

ただ、遺言によってすべてが変わるわけではありません。「そんな遺言は、聞いていない」という予想もしなかった遺言は、逆に揉める原因となります。ですので、遺言によって、ご自身の気持ちを整理され、いま何をしなければならないのかが見えてくる。これが重要です。

お元気なうちに、目の黒いうちに、ご遺族が仲良くあるために何をしておかなければならないのか。それは財産の相続以上に、重要なことなのではないかと思います。

(2020年8月度編集)