健康寿命の延伸は日本の重要政策、その現状と今後の課題とは

 厚生労働省が行った2017年の調査によると、日本人の平均寿命は男性が81.09年で世界3位、女性が87.26年で世界2位と男女とも世界トップクラスの長寿国です。テレビや新聞でも報道されるためご存知の方も多いでしょう。 一方、平均寿命と合わせて最近注目されているのが「健康寿命」です。健康寿命とは健康上の問題点がない状態で日常生活が制限されることなく送れる年数のことをいいます。

 現在日本では国の政策のひとつとして健康寿命の延伸に取り組んでいます。ここでは健康寿命の定義やこれまでの推移、現状行われている取り組みについてご紹介します。

健康寿命とは

 健康寿命とはWHOが2000年に提唱を始めた概念で、厚生労働省「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義しています。近年では日本の将来を決める重要政策のひとつにも取り上げられ、注目が集まっています。

健康寿命の現状と課題

 日本は平均寿命は長いけれど健康寿命は短い、という話をよく見聞きすることがあります。しかし実際には健康寿命提唱年の2000年では72.54年で第1位、2016年でも74.81年で第2位(共に男女の平均値)であり、平均寿命と同様に世界のトップクラスに位置しています。 都道府県ごとに分けた国内の詳細な結果では71年から76年まで地域により多少の上下はありますが、全体として健康寿命の数値はここ16年の間に2歳以上伸びており、国民の健康は年々増進していることがわかります。

 また、日本は現状高齢化社会に突入しており、今後世界でも前例のない超高齢社会を迎えようとしています。平均寿命・健康寿命ともに世界トップクラスの日本の動向は世界に与える影響が大きいのもわかります。 しかし、問題点も指摘されています。それは平均寿命と健康寿命の年齢差です。厚生労働省が発表した2016年の調査結果によると男性が平均寿命80.98年、健康寿命72.14年、女性が平均寿命87.14年、健康寿命74.79年というデータでした。その差は男性8.84年、女性が12.34年で男女とも10年前後体が不自由さを抱えたり、寝たきりになったりという生活を送っています。

健康寿命が国の重要政策へ

 国は2016年から将来への成長へ向けて官民一体となって各分野への取り組みを行うため、未来投資会議を開催しています。2018年には会合の決定事項として「未来投資戦略」を発表し、その中で健康寿命の増加を重点施策のひとつとして位置づけています。当初は2010年の数値「男性 70.42 歳、女性 73.62 歳」と比較して、2020 年までに国民の健康寿命を1歳以上延伸、2025 年までに2歳以上延伸という指標を掲げていましたが、2016年に目標に達したため、2018年にはさらなる健康寿命の増加を新たな目標指標に設定しています。  

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健康寿命延伸に向けた取り組み

 厚生労働省では、健康寿命を延ばすための具体的な国民運動として「健康寿命をのばそう!」をテーマに、スマート・ライフ・プロジェクトという取り組みを開始しました。個人への健康生活推進を提案するとともに企業、団体へも参加を呼びかけ、公共団体やNPO法人から医療法人、一般義業までさまざまな企業・団体まで取り組みが広がっています。

健康寿命をのばそう!スマート・ライフ・プロジェクト

 スマート・ライフ・プロジェクトは、人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れることを目標にしています。重要視しているのは「運動」「食生活」「禁煙」の3つの分野です。加えて「自分を知る」ことを大切として、健康維持や病気の早期発見を目的としてBMI値の解説や計算、定期健康診断や特定健診、がん検診など定期的な健康チェックも呼びかけています。

運動

 毎日10分体を動かすことを提案していて、掃除や庭いじりなど日常生活で体を動かすことや歩くことを推奨。音楽3曲分歩く、家からクルマでちょっとしたお出かけをする10分程度の距離を歩く、ひと駅分歩く、早歩きは立派な運動になる、といった苦しくない程度の手軽な運動を勧めています。

食生活

 適切な食生活は健康な体づくりに欠かせません。日本人が現在280gの野菜を摂取していることから、プラス70gの野菜を摂取すること、そして朝食をしっかり食べることで健康寿命を延ばすことを提唱しています。手軽にできる方法として中身をいろいろ変えたおにぎりによる朝食や、多忙な方には出勤途中にある喫茶店やカフェあるいはファストフード店での朝カフェでの朝食。野菜不足対策としては、あとトマト半分という具体的な目安やスープや煮物、温野菜など工夫し、豊かな食生活によって野菜を摂取しましょうと提案しています。

禁煙

 たばこの害を、健康だけでなく若さや肌の美しさを損なうことにもなるなど、多方面から指摘。具体的には、4,000種類もの多様な有害物質が美容に多大な影響を与えることのほか、女性の場合、子宮への影響や流産の可能性があることにも触れています。

企業・団体・自治体に広がる取り組みの輪

 スマート・ライフ・プロジェクトのなかでは2012年から「健康寿命をのばそう!アワード」という取り組みが行われています。2018年で第7回を迎えるこのアワードでは企業・団体、自治体を対象として、従業員や職員、住民に対して健康増進や生活習慣病の予防など優れた取り組みを表彰しています。表彰対象は「生活習慣病予防分野」「介護予防・高齢者生活支援分野」「母子保健分野」の3つで、前年度には全国から70件もの応募がありました。

生活習慣病予防分野

 生活習慣病予防分野では、スーパーや企業の減塩食開発、企業と健康保険組合がコラボレーションし被扶養者を対象とした健康診断、企業の取り組んだ社食の改善と喫煙対策など健康づくりへの多彩な取り組みが表彰されています。ほかにも医療法人の健康運動教室、特定健診者へのフォローアップ事業など健康チェックに関する取り組みもありました。 また、愛知県東郷町の実施した幼児期から始める生涯健康習慣づくり、というユニークな取り組みも目を惹いています。

 地域をあげての健康増進への取り組みでは大阪府東大阪市、東京都足立区、沖縄県の竹富島まで大小さまざまな自治体が表彰されており、各地で取り組みが行われていることがわかります。

介護予防・高齢者生活支援分野

 介護予防・高齢者生活支援分野では、宮城県岩沼市の介護事業者によるイベントの開催や交流サロンなどの設置で、生活のよりどころとなる場所の提供する取り組みや、佐賀県佐賀市の高齢者施設の呼びかけによる薬局・薬剤師の地域包括ケアシステムへの参加呼びかけが評価されています。 また、静岡県磐田市が実施している困りごとを抱えた住民と社会参加したい住民とのマッチング事業、岡山県倉敷市の定年男性の地域デビュー、佐賀県佐賀市の高齢者見守り活動なども評価を受けています。 ほかにも全体として、高齢者の居場所づくりや地域との関係づくりに関する活動が評価されており、人と人とのつながりを重視した活動が行われています。

母子保健分野

 母子保健分野では24時間・緊急の預かり保育、地域一丸となった子育て支援、赤ちゃんを中心とした受動喫煙防止への取り組み、スマートフォンを利用した小児科オンライン診療、子どもの睡眠習慣改善支援事業など育児のサポートや健康推進への取り組みが受賞しています。 ほかにも妊婦・乳幼児世帯の引きこもり防止事業、障がいのある親と暮らす子どもを支える取り組み、発達障害児のためのヘアカット事業など、障がいを抱えた親・子へのサポート事業が特徴的でした。また、少子化で兄弟や地域での子どものふれあいが減少している対策として行われた、小中学校への赤ちゃんとのふれあい授業といったユニークな企画も評価されています。
 

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健康寿命、今後の課題

 健康寿命、平均寿命ともに世界でも上位に入る日本ですが、二つの数値間の差異は依然として広く、寝たきりのように健康に問題を抱えるケースが多くあります。また、健康寿命には地域的な格差もあるため、それをなくす取り組みも必要です。 一方、日本人の死因の上位を占めるのが狭心症や心筋梗塞などの心疾患や脳梗塞といった血管疾患、いわゆる生活習慣病と呼ばれるもので、糖尿病や高血圧などが発症の原因になるとされています。

 こうした生活習慣からくる病気の予防のため、厚生労働省では2013年から、第二次となる健康日本21という国民健康運動を開始しました。そのなかで栄養や食生活、身体活動や運動など生活習慣の改善、生活習慣病の発症や重症化の予防、心の健康も含めた社会生活を営むために必要な機能の維持・向上といった具体的な目標を掲げています。 心身の病気をいかに防止し、健康を維持していくかがこれからの課題といえます。今後は、健康寿命の延伸に向け、ICTを活用した効率的な診療や医療機関の連携などが求められるのではないでしょうか。
参考:

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