2025年ごろまでには団塊の世代が75歳以上に達し、医療業界の業務が増大するといわれています。

政府は、医療業界の効率化を図るためには、医師や看護師など医療従事者の負担軽減が必要と判断し、評価の引き上げを実施しています。平成30年4月に実施された診療報酬改定では、負担軽減の対象者を医療従事者全体に拡大しました。また同改定で、ICT(情報通信技術)を活用した遠隔地でのカンファレンス参加や自宅での勤務も可能になりました。背景には、医療機関の業務負担が増えていることが明確になったという調査結果があります。

病院内の業務の全体像から、医師、看護師など担当ごとに時間や手間がかかる業務について見てみるとともに、改善方法や実施されている効率化の事例について説明します。

 

人口構造の変化と医療需要の変化

およそ800万人いるといわれる、ベビーブームに誕生した団塊の世代が75歳を迎えるのが2025年です。人口構造が変化し、これまでにない超高齢社会になることから、産業にさまざまな問題が起こるとされ「2025年問題」といわれています。

医療業界でも同様で、公益社団法人全日本病院協会は「病院のあり方報告書」の中で、74歳までの人口は減少またはほぼ横ばい、75歳以上の人口は2025年までに年間50万人以上のペースで増加すると予想しています。それに伴い医療・介護の重要性は拡大し続け、大都市圏では2040年にピークを迎えるとしています。

また、2011年の数値と比較して、2025年には入院患者数が全体で130万人/日から160万人/日へ増えることが予測されています。そのため、医療の機能分化と機能強化を行い平均在院日数も減らす工夫など、病院業務の改善と効率化が求められています。

業務改善と効率化に際しては、現在医療の現場でどのような業務にマンパワーが割かれているかの検証が必要不可欠です。具体的に手間がかかる医療業務とはどのようなものがあるのでしょうか。

 

手間がかかる医療業務とは

平成30年の医療報酬改定に先駆けて、平成28年に実施された改定では、医師や看護師など医療従事者の待遇改善への取り組みが推奨されました。改定実施後に行われた結果検証では、報告書の中で医師や看護師の勤務への負担感が報告されています。

医師

医師の負担感の大きい業務を見ると「診断書、診療記録及び処方箋の記録」(回答者の44.7%)、「主治医意見書の記載」(回答者の51.3%)、「診察や検査等の予約オーダリングシステム入力や電子カルテ入力」(回答者の39.5%)の3つが突出しています。ほかにも「患者の退院に係る調整業務」「患者に対する処方箋の説明」などがあげられています。自由記入式の回答では「他院への診療情報提供等の補助」「病歴要約・手術記録・療養計画書等の作成・入力業務」などの事務作業のほか、「病状説明や家族説明の入力・記載」など書類作成業務や記載業務がみられます。診察や診断といった本来の業務以外の文書作成やカルテ・データの入力に多くの労力をかけている状況がわかります。(報告書92、95頁より)

看護師

看護師の場合は、事務的業務や物品搬送、医療材料等物品の補充、準備、点検といった多様な業務があり、事務的業務で42.8%、寝具やリネンの交換やベッド作成で36.7%、環境整備で31.5%の回答者が負担感が大きいと回答しています。医師の場合と同様、患者への付添や行動の見守り、食事や排せつ、入浴の介助、口腔の清拭といった患者と向き合う業務以外の雑務に時間を取られていることがわかります。(報告書143頁より)

(出典)平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成28年度調査)の報告案について│厚生労働省

 

業務改善のポイント

前述の調査内では業務負担に対して実施している軽減策についても調査しています。医師・看護師ともに当直や勤務体制のシフトの調整や当直体制の見直しを行っているほかに、スタッフ間での「業務の分担」が行われています。基本的な業務量を減らしていくためにも業務の分担は大切なポイントになります。また、「ICTを活用した業務の省力化、効率化」を図る例も増えています。まだ実施割合としては13.9%と少ないですが、実施した内の71.2%が何らかの効果があったとしています。ICTの導入も今後、取り組むべき有効な改善ポイントといえるでしょう。

 

業務の分担による効率化

業務の分担に関しては高い率で実施されているものも多く、医師の業務分担策として「医療事務作業補助者の配置・増員」(82%)、「薬剤師による処方提案等」(81.2%)、「薬剤師による投薬に係る外来患者への問合せ対応や服薬指導」(86.4%)などが行われています。(報告書90頁より)

看護業務では「看護補助者との業務分担」(71.2%)、「薬剤師の病棟配置」(50.1%)、「病棟クラークの配置」(51.6%)が高い率で実施されているほか、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったほかの専門職種と業務を分担するケースも見られます。(報告書130頁より)

また、負担軽減の効果は医師の現場では「医療事務作業補助者の配置・増員」(88%)、「薬剤師による処方提案等」(87%)をはじめとして業務分担はそれぞれ高い効果をあげています。(報告書91頁より)

看護師の現場でも「看護補助者との業務分担」(83%)、「薬剤師の病棟配置」(81.8%)と医師の現場と同様になんらかの効果があるとの回答が多く寄せられています。(報告書136頁より)

 

ICTを活用した業務の省力化、効率化

平成30年に実施された診療報酬改定では、業務改善のための施策として「勤務場所の要件の緩和」をあげています。その中ではICTの導入を推奨しており、画像診断や病理診断では一定の条件のもと自宅での読影を可能としています。またカンファレンスにおいても、遠隔での参加を評価の対象にするとしています。近年ではICTを活用した患者のモニタリングシステムや電子カルテの普及も進んでおり、機器やシステムの導入により医療業務全体の効率化も期待できます。

 

ほかにもある効率化の事例

効率化の事例はほかにもあります。業務の内容自体を精査し改善につなげた事例と、前述のICTの活用をさらに進めた2事例を紹介します。

病棟看護業務改善

都内で高度急性期患者の受け入れを行っている総合病院では、看護業務の改善が必要でした。なかでも、「報告・記録業務が業務時間の1/3を超えている」「時間外の薬剤業務による残業」「入院患者のモニタリングに改善の余地がある」ということが具体的な課題でした。

自書式のスタディシートを使って、看護病棟における業務内容の洗い出しから始めて、看護師全員で業務の記録と観察を行い、申し送りの改善など業務改善につなげました。その後、他病棟へも同様の活動を展開。各病棟の特性に合わせた業務改善が可能になり、最終的に患者への手厚い看護の実現につながりました。

病院のシステム導入

千葉県で高度医療から在宅医療まで手掛ける総合病院では、独自の電子カルテシステムの開発や病床への情報機器や院内へのWi-Fi導入など、ICTの導入をいち早く進めていましたが、データの一元化が課題でした。ICTを利用して取得したデータがさまざまな形式で別々の場所に保管されていたため、必要なデータがすぐに取り出せないケースが発生していたからです。

そのため、外部技術者の協力のもと、集積されたデータを一元的に管理して、院内のすべての部署から利用できるシステムを構築しました。将来的には、入院患者のベッドコントロールや医師の論文作成のためにデータ検索環境を整えるなど、ビッグデータの本格的活用を視野に入れた医療サービスの充実を目指しています。

 

まとめ

平成29年に総務省・厚生労働省は「医療現場におけるICT利活用」という報告の中で、保健医療分野におけるICT化推進の取り組みの全体像を述べています。「医療情報のデジタル化」「医療情報の共有・連携のネットワーク化」「イノベーションを生み出すビッグデータ化」を進めるとともに、さらなる目標として「医療機関等の連携・研究開発・医療の効率化を推進」することが今後求められる姿です。

病院業務でまず必要不可欠なのは、医師や看護師、スタッフによる業務の見直しや連携などソフト面の改善です。加えてICTの導入などハード面の改善を行っていくことで、よりスムーズな組織づくりが可能になり、医療従事者の負担も軽減されるでしょう。将来的には、遠隔での診療や検査データの管理・収集、データの活用が進むことで、地域に左右されることなく、より高度で効率的な医療が推進できるのではないでしょうか。

 

参考:

 

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