未来投資会議、医療面のビジョンと現場に求められること

 2016年9月から開催されている「未来投資会議」。今後の日本の成長を担う分野について、国だけでなく、民間も協力し「官民一体」となって投資を進め、成長戦略や構造改革の加速化を図るための政策について話し合う会議です。 この未来投資会議において、医療分野に関して期待されていることやこれから医療業界が取り組んでいくべきことには何があるのでしょうか。

未来投資会議とは

 未来投資会議とは日本経済再生を目的として、成長戦略と構造改革の加速化を図るために行う会議を指しています。2016年9月に設置され、国全体の未来への投資の拡大に向けて、官民が対話し協力することでより効率的に再生を進めようとしています。 議長を内閣総理大臣が、議長代理を副総理が務め、副議長を経済再生担当大臣兼内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、内閣官房長官、経済産業大臣が務めます。

 また構成員は、「内閣総理大臣が指名する国務大臣及び『未来への投資』に関し優れた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が指名する者」とされ、国内の産業各分野から人材が集まっています。 これまで開催されていた「産業競争力会議」「未来投資に向けた官民対話」の2つの会議は、未来投資会議に統合されました。本会議が成長戦略の司令塔としての役割を担うこととなり、分野のひとつとして医療・介護関係を扱う会合が開かれています。

未来投資会議における医療面のビジョン

 会議内における第1回~5回までの構造改革徹底推進会合の中で「健康・医療・介護」分野について話し合いが持たれました。この会合で、未来投資戦略 2017および未来投資戦略 2018におけるKPI(Key Performance Indicators)が定められました。KPIとは業績評価指標と訳され、目標達成の度合いを測る具体的数値を指しています。 未来投資会議では、KPIを「国民の健康寿命を延ばす」ことを目的として決定。具体的には2010年の健康寿命(男性70.42歳、女性73.62歳)と比較し、「2020年までに健康寿命を1歳以上延伸し、2025年までに2歳以上延伸」としています。この指標を達成するために2017年6月に「未来投資戦略2017」という改革案を発表しました。

 2018年には、前年の進捗状況をふまえ新たな修正案を加えた「未来投資戦略2018」を作成し、新たな指標としています。 さらに未来投資戦略2018では、変革のけん引力となるフラッグシッププロジェクトのひとつとして医療関係に注目。「次世代ヘルスケア・システムの構築プロジェクト」における以下の3つのサービス提供を目標としました。

個人に最適な健康・医療・介護サービス

個人に最適な医療・介護サービスを提供するために医療機関相互での健診・診療・投薬データの共有を目指します。

医療・介護現場の生産性向上

医療現場の生産性向上のためICTの導入を推進します。

遠隔・リアルタイムの医療とケア

医療機関の連携による服薬指導も含めたオンライン診療の推進を進めます。 こうした施策から見えてくるのが「医療現場におけるICT化」「オンライン診療の推進」「医療データの利用基盤の構築と利用の推進」という3つの指針です。

医療現場におけるICT化

 ICTとはInformation and Communication Technology(情報通信技術)のことを指します。未来投資会議以前から、医療現場ではICT活用を方針として掲げてきました。電子カルテの普及率アップや電子処方せんの導入、地域医療の情報連携ネットワークの構築がその中身です。未来投資会議でも健康・医療・福祉の会合で取り上げ、その取り組みをさらに推進する方針を打ち出しています。

オンライン医療の推進

 未来投資戦略では健康・医療・福祉の第2回会合でオンライン診療について討議。オンライン診療システムYaDoc(ヤードック)を用いた診療モデルが示されました。バイタル測定や生活情報の記録などのモニタリングや問診、診察をオンラインで行うことで、患者と介護者、医療従事者双方の負担が減り、早期対応も可能になるメリットを紹介しています。

医療データの活用基盤の構築と利用の推進

 医療データがアナログからデジタルになることで、全国の保険医療機関で個人の診療データを共有することが可能となり、医療機関や個人が健康管理を行いやすくなります。特に健診や予防接種が必要な妊娠~出産期間、乳幼児期、学童期の健康情報共有のメリットについてもふれ、マイナンバーとも関連付けた活用をあげています。

未来投資会議を受けて病院がすべき対策

 ではこうした施策をふまえ、実際の医療の現場ではどのようなことが必要でしょうか。ひとつの切り口として医療現場業務の効率化という観点から、実例をあげながら見ていきます。医療業務の効率化によって、患者が受診しやすくなり、健康維持の機会が増える(健康寿命の延伸にも貢献する)でしょう。

オンライン診療の実例

 日本では遠隔地への医療情報提供を1970年代から行ってきました。遠隔地における医療機関同士での画像診断補助から、患者の血圧や呼吸などの生体情報のモニタリング、遠隔妊婦健診などさまざまな取り組みが行われ一定の成果が報告されています。未来投資会議でも同様の取り組みとして、福岡市と福岡市医師会の「ICTを活用した『かかりつけ医』機能強化事業」について報告しています。

 福岡市では、外来診療(勤労者・高齢者)、在宅診療をモデルケースにオンライン診療を実施。効用の検証を行いました。結果として患者本人と介護者の負担を減らし、かかりつけ医の機能を強化することができました。さらに、急変時にも有効な場合があるといったオンラインのメリットも報告されています。

医療におけるICT導入とデータ活用の実例

 静岡がんセンターは平成24年より民間会社の協力のもと、医師の画像診断を助ける「類似症例検索システム」の開発を行っています。このシステムはCT検査画像の読影を行う際に、症例のデータベースから病変の特徴が似た画像を検索し表示するというものです。 医師は表示された画像を参考にして、患者の画像と比較しながら診断を行うことができます。過去の症例データを追加することで、さらに多くの検査・診断に役立てることができます。実際行った実験では9割の確率で適切な画像を表示することに成功しています。

今後の活用ポイント

 福岡市の事例では参加医師による意見として「医師の判断による適用判断が重要である」とされ、静岡がんセンターの実例ではAI(人工知能)やICTが人間のサポートを行うことで医療の効率化を実現できる、とされています。 ICTやAIの導入や活用のポイントは、業務すべてを任せてしまうのではなく、あくまで効率化の道具として活用することです。2つの実例から人間と機械、システムが協力して大きな成果をあげられることが見えてきました。

 今後の活用方法としては、こうした視点がポイントになるのではないでしょうか。また、静岡がんセンターの例でもわかるとおり、データ活用のための基盤づくりに必要なのは官民の協力が必要です。

まとめ

 未来投資会議は、通信技術をはじめとした先進技術も取り入れた成長戦略です。医療業界にもAIやICTを導入することで、業務の効率化や改善が進みつつあります。健康寿命を延ばすことは機械やシステムだけではできません。人間の活動に上手く照応することで、より良い医療環境を実現できるのではないでしょうか。システム導入の際には、人をサポートする視点で新たな技術の導入をすることが最も大切といえるでしょう。

参考:

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