ICT技術が発展してきている現在でも、またまだ効率化の余地がある業種や業務は存在しています。そのなかでも、医療機関においての業務は効率化が遅れていると考えられます。
医療行為全般に関して現状をみてみると、医師による指示がないと実施できないという制約があるため、医師に業務作業量が集中していることが、問題視されています。
医療機関のこのような問題に対して、ICT・AI技術を用いて業務軽減する試みが始まっています。今回は、医療業務の効率化を図るためにICT・AI技術を応用したRPAについて見ていきましょう。

 

医療機関の労働環境

生命を預かる医療サービスにおいては、医師をはじめとする医療スタッフの労働時間や労働環境より、治療を優先してきました。しかし、医師の過剰労働が表面化し、医療機関に対して、民間企業同様「働き方改革」の必要性が指摘されています。
そこで厚生労働省は、「医師の働き方改革に関する検討会」を通して日本医師会に提言の取りまとめを求めています。

しかし、医療機関は診療報酬改定・医療計画・地域機能性などに影響されつつも、医療の質・量ともに維持しなければならない特殊な業態です。さらに、医療は患者さん一人ひとりに対する治療・検査がすべて異なり、いわばオーダーメイドに対応しています。その代償として、時間・人材などが多く割かれてしまうため、長時間労働を避けられないケースが多いというのが現状です。

また、医師はより良い医療を提供するため、常に自己研さんする必要があります。医療に関する知識や技術のほかにも、医学的エビデンスが日々進歩しているため、常に最新の情報を入手・吸収することが求められます。
そのため、通常業務が終了しても新しい知識・治療方法を吸収するために、論文を調べたり、各種勉強会、研修会などに参加したりする必要があり、長時間労働を助長しているとの指摘もされています。さらに、病院勤務の医師において当直やオンコールはよく知られています。

加えて、近年では在宅医療に関わる診療所が増加し、24時間体制や看取りも行われています。現在、ますます高齢化が進行することが予測されているなか、医療費を削減するため、自宅や介護施設での治療を増やし慢性期病床数を削減しようという動きが強まっています。今後、自宅で看取る需要はますます増えていくことでしょう。以上のように、医療を取り巻く環境下においては、長時間労働を招く要素が複数存在しています。

このようにさまざまな要因によって、病院だけではなく診療所においても、医師の労働時間長期化が深刻化することが考えられます。

 

医療機関で導入されるRPAってどんなもの?

通常業務のなかには、ルーチンワーク(定型業務)として行っていることも少なくないはずです。そうした膨大な量の作業を人間が行うと、どこかで単純な間違いといったヒューマンエラーが起きる可能性がないとは言い切れません。そこで、頻度の高いこれらのルーチンワークをコンピュータシステムで自動化できないか、という発想から生まれたのがRPA(Robotic Process Automation:作業自動化のためのテクノロジー)です。

RPAは、2014年に欧米で生まれたホワイトカラー(知的・技術的労働および事務・販売の仕事についている従業員)の業務代行と業務改革手法を組み合わせた新しい技術です。このシステムを医療関連業務に応用しようとしているのが「医療機関版RPA」なのです。

診療自体は、医師が介在しないと何もできません。しかし、直接の医療行為ではない事務作業のように頻繁に行われるルーチンワークを自動化できないかという発想は重要です。これらのことが実現されれば、医療機関の労働環境の改善に役立つことでしょう。

例えば診療所であれば、電子カルテのデータを診療時間外に自動でバックアップさせることや、検査会社から電送されてくる血液検査などのデータを毎朝電子カルテに取り込む作業などが該当します。これらの単純作業にRPAを導入し、コンピュータシステムに組み込んで毎日同じ時間に実行させ自動化することができれば、作業の効率化と単純ミスの削減が同時に見込めるでしょう。

 

RPA導入のメリット

RPAの最大のメリットは、ルーチンワーク化された業務を人間の手で行わないことで、正確に、短時間に実行できることです。主に、下記のようなことが期待できます。

  • コスト削減
    業務を自動化することで、医療スタッフの労働時間の削減できるため、コスト削減に貢献できます。
  • ミス防止
    単純な作業を機械に行わせることで、入力ミス、作業のし忘れなどのケアレスミスを防止することができます。
  • 業務効率化
    業務を自動化することで、医療スタッフは空いている時間を有効に使うことが可能になるため、医療行為のように必要な業務を効率的に進めることができるようになります。

しかし、こうしたメリットは理解できるものの、RPAが医療機関の実際の業務に、どう応用できるかが不安だという方もいらっしゃるでしょう。そこで、どのような業務にRPAを導入できるのかを具体的に挙げていきましょう。

  • 各種検査結果を電子カルテへ自動取り込み
  • 医事会計・精算業務
  • レセプトチェック
  • 消耗品の自動発注
  • 売掛・買掛などの自動決済
  • 経費精算の確認
  • 職員の労働時間の集計
  • 上記における各種レポート・統計資料作成

このような業務をRPAによって自動化することによって、医療スタッフの業務効率が上がり、より一層の医療サービスの提供につながるなどの相乗効果が期待できます。

また、直接的な業務だけではなく、財務資料などから経営に必要な統計資料作成をルーチン化することにより、患者動向や検査内容をリアルタイムに確認でき、スピーディーで的確な経営も実現できるでしょう。

 

RPA導入の具体例

では、実際にRPAを導入して業務効率化に成功したあるクリニックの例をもとに、導入前の問題点と導入後にどのように改善されたかについて紹介いたしましょう。(事例:東京都、五の橋レディスクリニック)

導入前の問題点

  • 人材不足のなかで業務効率化を図りたいが、どのようにすればいいのかがわからない。
  • 検査結果を電子カルテに取り込み、診療に反映する必要があるが、人手がかかりスタッフに負担がかかっている。
  • 電子カルテを作るうえで入力しなければならない箇所が多く、どうにかしたい。

導入後改善された点

  • 検査結果の取り込みの自動化
    院内検査の結果を自動で電子カルテに取り込むことができるので、スタッフの手を煩わせることなく迅速に診療に反映することができるようになりました。その結果、患者さんの待ち時間が短縮され、スタッフは空いた時間で患者対応に集中できるようになり、病院業務の質の向上に貢献しています。
    また、検査結果の取り込みが非常に早く、入力ミスがないことで安心して診療に活用できるようになりました。
  • 電子カルテへの自動入力(病名の自動入力)
    重要な業務のひとつに電子カルテへの病名の入力作業があります。会計にも影響することから、受付スタッフの大きな負担業務のひとつでした。しかし、病名の自動入力機能を導入したことで、病名を入力しなくても会計ができるようになりました。
    また、レセプトチェック時に病名入力をする必要がなくなったことで、毎月月末のレセプトチェックの負担が大幅に軽減され、作業にかかる時間が減り、レセプトチェックに関するほとんどの作業を定時業務内で終わらせることができるようになりました。
  • 診療予約システム設定の自動化
    毎月、レセプト作業と次月の診療予約表を更新する作業が重なってしまうことが、大きな負担でした。さらに、手作業で細かな設定をする必要があり、入力ミスなども起こっていたので、ダブルチェックなどをしていました。しかし、この作業を自動化することで、ミスチェックの省略化もすすみ、診療予約表を作る作業にかかる時間が大幅に短縮され、レセプト作業に集中できるようになりました。

 

まとめ

ICT・AI技術を活用した事例は、マスコミでもたびたび紹介されています。これらのICT・AI技術を用いて、作業の自動化を実現したものがRPA(作業自動化のためのテクノロジー)です。
医療機関においても、RPAによって作業の自動化が実現できれば、業務の効率化、労働時間短縮の実現に有効なだけではく、もっとも重要である医療行為そのものへの集中が図れると期待されています。そのことで現在、RPAに注目している医療機関は増えつつあります。
今まで、医師やスタッフが当たり前に行ってきた業務を適性に応じて自動化できれば、医療機関も働き方改革に積極的に取り組める環境を作ることができます。まずは現状の業務環境を見直し、どのように導入できるのかを検討してみましょう。

 

参考: