地域包括ケアシステムの実現のために、各医療機関が持っている医療情報を共有化しようとする試みが、厚生労働省を中心として始まろうとしています。しかし、今まで各医療機関のなかだけで管理されていた医療情報をネットワーク上で運用した場合、セキュリティは万全かどうかも議論されています。そこで、国は「3省4ガイドライン」(厚生労働省・経済産業省・総務省の3省が出している4つのガイドライン)を策定し、外部からの脅威から守るべきセキュリティの方針を定めています。
これに加え、民間で利用されている堅牢なセキュリティ技術である「ブロックチェーン」の活用が注目を集めています。今回はこのブロックチェーンがどのようなものなのかを見ていきましょう。

 

1.医療ビッグデータの活用について

現在の医療システムのなかにも、共通フォーマットにおいて電子化された医療版ビッグデータ(レセプトデータ・電子カルテの診療情報・臨床・調剤・健診データなど)があります。しかし、医療情報全体においては、各々のデータフォーマットが異なっているため、情報がクローズ化されている状況です。

海外における医療ICT技術の現状

世界に比べると、日本の医療ICT利用については、まだ発展途上です。この分野で世界トップクラスのひとつといわれるのがエストニアです。エストニアは、ソ連に併合されたのちに独立を果たした、北欧に位置する小さな国です。しかしICT大国として名高い、英国・ニュージーランド・韓国・イスラエルとともにD5と呼ばれる、世界最先端電子政府グループのメンバーとなっています。
エストニアでは国民IDカード・電子投票・税金の電子申告などICTが最も得意としている分野で運用がなされており、医療ICTの取り組みも非常に進んでいます。
具体的には、画像・電子カルテの共有・電子処方箋などをすでに運用しており、特に、電子カルテの共有に関しては、簡略版をサーバー上へアップロードすることが義務づけられています。医療スタッフだけではなく、患者本人も閲覧可能になっています。
このような医療ICTに関しての技術・ノウハウは、日本が学ぶべきものがありそうです。

日本における電子データの将来的展望

日本には、前述したような医療版ビッグデータの蓄積があります。現状では、そのデータの一次利用(データを治療の目的に利用すること)はできています。さらにこれからはそのデータを統合して二次利用(一次利用以外の目的で利用すること)が非常に重要になると考えられています。

医療版ビッグデータには、社会保険のレセプト・DPC・特定健診各データのほかにも国保連合(国民健康保険団体連合会)の医療・介護・健診データなどがあります。現状では、これらのデータは統括して一元管理されていません。しかし、今後はこれらを将来の治療や医療政策策定などのために二次利用することが求められてくるでしょう。

医療データ共有化:セキュリティに対する不安

医療データを公開する準備段階として、平成30年度診療報酬から導入された「オンライン診療」があります。この診療を実行するためには、使用する電子カルテが「3省4ガイドライン」に準拠している必要があります。
このガイドラインがあるからこそ、インターネットを介した診察でも、データ漏えいなどのリスクの少ない安全な遠隔医療が開始できたといえます。これから地域包括ケアシステムを実現するために、電子カルテの共有化に向けても前進したといえるのではないでしょうか。

 

2.データを守るセキュリティ技術、

「ブロックチェーン」とは?

では、データを守るセキュリティ技術として注目されているブロックチェーンについて具体的に見ていきましょう。

ブロックチェーンとは?

インターネットのようなネットワークは、仕事や生活の質を大きく変える可能性を持っています。一方、セキュリティ面に課題があります。そのためセキュリティを高めるさまざまなテクノロジーを駆使した技術が生まれているのです。ブロックチェーンはその優れたセキュリティ技術のひとつと考えてよいでしょう。

ブロックチェーンは、2008年に「サトシ・ナカモト」という人物が仮想通貨流通のために論文で提案した技術です。仮想通貨というと、日本で漏えい事件が起きたこともあるため、ブロックチェーンのセキュリティが脆弱性ではないのかという印象を持っている人も少なくないでしょう。
しかし、この事件はブロックチェーンの脆弱性ではなく、運営会社の仮想通貨に対する管理体制に問題があったことが原因です。

また、現在、ブロックチェーン技術を応用した金融商品の開発に向けて世界的な大手銀行が100行以上参加し、検証を繰り返しています。ブロックチェーンは、データの固まり(ブロック)を鎖(チェーン)のようにつなぎ合わせ、データの改ざんが簡単にできないようにする技術です。また、各パソコン同士でデータ管理をしているためデータセンター(サーバー)が不要で、運用コストを非常に安くすることができます。さらにサーバーが不要ということはサーバークラッシュなどの心配がなく、24時間いつでも安全に取引が可能なことなど、長所が非常に多い点でも注目の技術なのです。

医療におけるブロックチェーン技術の応用

このようなコストが安く済み、不正や改ざんができない仕組みが特徴のブロックチェーン技術を、医療でも応用できないかという試みが始まっています。

前述したエストニアの医療ICTの取り組みは、ブロックチェーンを使用したシステムで構築されています。カルテは医師や看護師など医療スタッフだけではなく患者本人も閲覧可能です。また、記録を残さずカルテを更新することが不可能な仕組みであるため、勝手に改ざんすることは不可能です。

ブロックチェーンを医療で運用する場合、重要な個人情報を扱うことになるため秘匿性が必要になります。そういった場合には、仮想通貨のようなパブリック型(誰でも閲覧可能)ではなく、プライベート型(許可されたものだけが閲覧可能)のブロックチェーンを用いることで、高い秘匿性を担保することができます。
このような技術を使って個人のカルテ情報を共有し、医療の効率化、伝達ミスによる医療事故防止が可能となる時代はもうすぐそこまで来ているといえるでしょう。

 

医療にもたらすブロックチェーンのメリット

ブロックチェーンは、上記のように安全にかつ手軽に医療情報を管理するうえで、最高のシステムになると考えられます。

海外ではすでに、新薬開発時の治験データ改ざん防止などに応用され始めています。各種情報・データの信頼性や透明性は、医療や製薬会社にとっては生命線です。これらの改ざんを防ぐには、ブロックチェーン技術を応用した大規模なシステム構築が重要です。
また、臨床データ・治験等で培った技術やノウハウは、今後の治療において財産になりうるでしょう。レセプト・DPCデータなどを連結したデータベースの提供は、製薬会社や大学・研究機関などの信頼できる研究者や医師などに対して限定的に公開することにより、医療全体のレベルを押し上げることには効果的です。

医療費の支払いも現金やカード払いではなく、仮想通貨で決済できるようになれば、売掛金や医療費の未払いなどが減り、医業経営のリスクも解消される可能性がでてきます。

さらに日常の臨床についても、遠隔地・へき地・無医村などの地域において、さらに高度な医療を展開できるようになります。これは医療側、患者側双方にとって望ましい状況だと考えられます。

また患者側の負担も非常に少なくなります。病院に通うのが大変な地域においては、オンライン医療や電子処方箋などによって患者の負担が減るケースも多いことでしょう。また、わざわざ来院しなくては入手できない医療情報提供書(紹介状)や画像データも、紹介された医療機関と情報の共有が容易になれば患者側にとっては大きなメリットになるはずです。

このように、医療側・患者側にとって大きなメリットがあることは、医療に大きな可能性を示すことになるでしょう。

 

日本が期待する医療版ブロックチェーンの応用

現在は、医療機関が持つビッグデータに関しては、データフォーマットが異なったり、電子データでなかったりすることで、医療データの一次及び二次利用ができていないケースがあります。

社会保険関連のレセプトデータや特定健康診査やDPCデータのほかにも、国保連合が所持する医療・健診・介護などの各データは一元的に統括されていません。また、特定健康診査は全国統一のデータフォーマットですが、定期健康診断や人間ドックなどのデータは、統計的にも一元管理にはまだまだほど遠い状況です。

しかし、今後はブロックチェーンなどのテクノロジー技術を応用して、これらのデータを集約し一元管理することが必要です。このような取り組みは、政府の成長戦略として徹底的に推進するよう継続されています。
これらのビッグデータを管理・運用することで、直接的なデータ活用(一次利用)だけではなく、国民の健康を維持するため施策の基礎資料(二次利用)として、データ分析による有効利用が期待されます。

このように国が中心となり、将来的な構想を練ることが、日本の医療をさらに発展させる基礎となることでしょう。そういう意味でも、医療版ビッグデータの活用は、大きな意義を持つのです。

 

まとめ

民間企業では、一般的にICTの導入が進んでいますが、医療に関してはまだまだ後塵を拝している状況です。しかし、ネットワークで開発されたICT技術を積極的に応用しようという動きが加速しています。

特に、仮想通貨で利用されているブロックチェーンという技術が、医療にも応用できるという期待が専門家からも寄せられています。医療情報の共有化に関しては、情報の漏えい、改ざん・サイバー攻撃などにも耐えうるテクノロジーが必要なのです。

 

参考: