医療分野で進むIoTの導入、現状と今後の展望
さまざまなモノがインターネットを通じてつながることで、情報交換や相互制御を可能にする「IoT(Internet of Things)」。家電や自動車などさまざまな業界で導入が進んでいますが、医療業界も例外ではありません。医療業界でIoTが注目される背景や導入のメリットなどについて解説します。IoTの導入を検討中の人におすすめです。
医療業界でIoTが注目される理由
情報通信技術の発展に伴い、遠隔での診療への可能性が論じられ、平成9年には医療法における無診察治療等の禁止との関係について明確化が行われました。その後、パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットなども活用したICT「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の急激な発展にともない、平成30年には医療上の必要性だけでなく、安全性や有効性を担保するために新たに指針を策定。診療報酬改定で情報通信機器などを用いた遠隔診療が、医療行為の一部として認められるようになっています。
そうしたなか、離れた場所での情報交換だけでなく相互制御も可能にするIoTが、医療業界で注目されています。IoTは、個人のより詳細な健康管理、離島や過疎地をはじめ医療空洞化が進んでいる場所への医療の提供、災害時の医療活動にも活用できるのです。
医療におけるIoTのメリット
医療業界におけるIoT導入には、以下のさまざまなメリットがあります。
遠隔での診療
さまざまなICTデバイス(コンピューターやタブレット、携帯電話、電子技術を用いた情報処理や通信に関する機器)を使用することで、遠隔での医療が可能になります。過疎地や災害地での診療のほか、寝たきりや病気などの理由により医療機関での受診ができない患者への日常的な診療にも活用できます。遠隔診療は妊婦健診や眼科医療、遠隔地の看護など幅広い場面で導入が進められています。
ICT機器を用いたモニタリング
ウェアラブル端末を用いて、心拍数をはじめとする各種数値の収集と管理が容易になります。また、消費カロリー計測や睡眠計などの機能を、健康管理に役立てることも可能です。ICT機器を用いたモニタリングは、医療機関だけでなく、民間企業が個人消費者向けに開発している製品でも利用できます。
医療データの活用
医療データのデジタル化により、検査データの共有や活用が可能になります。従来の紙ベースによる検査データの管理と比べ、複数の医療機関や医師の間でデータ共有が可能になるほか、検査数値のグラフ化や分析が容易になります。また、多くの数値を集めたビッグデータを活用することで、新たな治療の研究に役立てることも可能です。
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医療におけるIoT導入の課題
医療におけるIoT導入にはいくつかの課題もあります。
1. セキュリティへの対策が必要
まず考慮すべき点は、セキュリティへの対策です。検査数値をはじめとする医療データは秘匿性の高い個人情報です。患者個人の生命に直接関わることも多く、高い価値を持っています。また、ハッキングにより情報の漏洩や検査数値の改ざんが行われる可能性もあり、医療事故に結び付くことも考えられます。
2. 共有への問題点
デジタルデータ化のメリットとして、データ共有が容易になることがあります。しかし、個人情報保護への関心の高さを背景に、人によっては、複数の医療機関や医師の間でデータがやり取りされることに、心理的抵抗を持つことも考えられます。事前の説明と同意を得たうえでデータを扱うことが必要です。
3. 導入が難しい分野も
医療分野では遠隔操作での手術が可能な遠隔医療ロボットが登場し、普及も進んでいます。しかし、遠隔操作での手術は医師へのトレーニングや法整備が進んでいないため、外科的治療への導入が難しいのが現状です。一方、自宅や医療機関でのケアの充実や、個人の生活に密着した細やかな医療サービスの実現には、導入への障壁は低いといえるでしょう。このような場面で、今後一層の導入促進が期待されます。
医療におけるIoTの活用事例
1. 医療機器のデジタル化
介護や訪問医療の現場で使用する医療機器は、小型化と同時にデジタル化が進んでいます。例えば、訪問医療で用いる超音波診断装置では、タブレット型やハンディタイプが開発されており、データをWi-Fiで送信することも可能です。素早い医療対応と同時に検査データの共有が可能になっているのです。
(出典)タブレット型超音波画像診断装置 SonoSite iViz | 富士フイルム
2. ICTデバイスによるリアルタイムな体調管理
介護現場で使用する介護ベッドでは、臨床からの時間経過や患者がベッドから起きるタイミングを、スタッフステーションに知らせる機能などが装備された製品が登場しています。また医療現場では、寝ている患者の脈拍数や呼吸だけでなく睡眠や覚醒を測定し、ナースセンターや電子カルテとのデータ共有ができる「スマートベッドシステム」が活用されています。手首にはめるウェアラブル端末では、体温や脈拍、加速度を測るセンサーにより体の状態や位置の変化を知ることができ、容態の変化や徘徊などへの対応が可能です。
(出典)Smart Bed System│パラマウントベッド
3. ビッグデータ活用によるAI(人工知能)と医療の融合
静岡がんセンターでは、民間会社と協力し、確定診断のついた過去の症例をデータベース化することで、医師の診断を補助するシステムを開発しました。AIが得意とする画像やデータの検索や参照をシステムに取り入れることで医師の手間を省き、診断のスピードや正確性の向上に役立っています。
(出典)富士フイルムと静岡がんセンター、AIで画像診断を支援するシステム│日本経済新聞
4. 遠隔診療
2018年から、診療報酬の改定により遠隔診療を行うことができるようになっています。専門医による手術支援や手術後のケア支援、過疎地への診療のほか、在宅患者の診療や妊婦健診など幅広い医療分野で遠隔診療が行われています。また診療以外にも、心身状態をモニタリングしての遠隔看護や高齢者への見守りサービスなどが実施されています。
(出典)遠隔診療サポート機能付き見守り支援システム 「ニプロハートライン TM」 提供開始のお知らせ
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医療におけるIoT、今後の方向性とは
厚生労働省では遠隔診療を推進するほか、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインの整備も進めています。すでに少子高齢社会に突入している日本に、今後さらなる超高齢社会が到来しようとしています。より効率的な医療が必要になることは論をまちません。そのために必要になることのひとつが、医療におけるIoTの導入です。さらに医療分野へのIoTに関しては、医療機器とヘルスケアのITシステムを、オンラインのコンピューターネットワークを通じてつなぐという概念「IoMT(Internet of Medical Things)」が提唱されています。 これは前述のリアルタイムな体調管理やビッグデータの活用による人工知能と医療の統合を明文化した考えです。
現在同学会では ・遠隔診療プラットフォーム ・ブレスレット型ウェアラブルデバイス ・iPhoneリサーチキット ・IoTトイレ ・IoT体温計 ・スマート体重計 ・デジタル聴診器 といったさまざまな事例を対象として研究をおこなっています。法整備やトレーニング、セキュリティなどの課題は残りますが、実用化と導入が進むことで医療従事者、患者双方にメリットが大きく、今後も推進する必要があると言えるでしょう。
参考: