医療IT最前線 第73回 医師をサポートするフィジシャン・アシスタント(PA)の可能性
超高齢社会を迎えている我が国において、生産人口の減少による人材不足が深刻になりつつあります。その現実を打破するためには、「ICT」などを活用した生産性の向上とともに、医師に集中しがちな業務をタスクシフトするために、医師をサポートする人材の活用に注目が集まっています。
厚労省の検討会で「フィジシャン・アシスタント創設」を提言
2017年4月に、厚労省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護等の働き方ビジョン検討会」が報告書をまとめました。その中で、「フィジシャン・アシスタント(PA)の創設等」という項目が盛り込まれました。
「今後、労働力制約がより一層高まっていく我が国において、医師がその高度な医学的専門性を発揮し、本来担うべき業務に精注するためには、タスク・シフティング/タスク・シェアリングを進めつつ、プライマリ・ケアと高度医療の両方の場面で医師を支える人材が必要である。日本においても、海外の事例を参考に、フィジシャン・アシスタントの資格を新たに設け、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理等ができるようにすることを重要な選択肢として検討すべきである」と医師をサポートする新たな職種の創設を提言しています。
プライマリ・ケアの現場で求められている職種
医師の事務作業をサポートする職種に、「医師事務作業補助者(医療クラーク)」という職種があり、病院等では診療報酬での評価もあり、積極的な配置が進んでいます。
一方、今回取り上げられたフィジシャン・アシスタントは、「簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理等ができるようにする」とされているため、医師事務ではなく、医師の診療そのものをサポートするプチドクターのような役割を担う職種と言えるでしょう。
わたしは長らくプライマリ・ケアの現場で、システムの導入をサポートするとともに、医師の負担軽減、スタッフのITリテラシーの向上を目的に、医療クラークや事務スタッフの教育を行ってまいりました。そのような取り組みの中で、今回の提言は、診療所などプライマリ・ケアの現場では、大歓迎の内容と言えます。
診療所のクラークの業務範囲の現状
実際、診療所ではいまのところ「医師事務作業補助体制加算」は算定できません。そのため、診療所のクラークは業務範囲が明確でなく、電子カルテ入力(記事作成・コスト算定)、紹介状の下書き、レセプト点検などの事務作業以外にも、診療介助や器材出し、問診などを行っているケースが多く見受けられます。
また、在宅医療では、事前のヒアリングとともに、家族への状況や料金(自己負担、高額療養費制度など)の説明、ケアマネージャーや看護師、ヘルパーなど関係職種との情報連携も行っています。
医師事務、診療補助に医療ITの視点を加えて欲しい
今後、厚労省で有識者を集めて、「フィジシャン・アシスタント」の業務範囲やスキル、資格取得のための制度の検討が行われていくと思います。そこで、これまで、医師のサポートスタッフ育成を草の根的に行ってきた立場から、少し提言をさせていただきます。
診療所のように、ヒューマンリソースに限りのある現場では、様々な業務を兼務することが多く発生します。そのため、事務作業だけ、診療補助作業だけといったように、業務範囲に制限をかけることは現場の運用にそぐわないように感じます。つまり、スペシャリストよりもゼネラリストの視点で業務範囲を考えて欲しいのです。
また、診療所の経営効率化のためには、医療ITと人材活用は対であると考えます。両社が組み合わさって初めて効果が生まれるため、医療IT機器を使いこなすためのスキル、活用するためのスキルも重要な要素であると考えます。
(2019年8月7日)