オンライン診療は新局面へ。LINEは医療市場に受け入れられるか?
オンライン診療の現状
オンライン診療にとって劇的な変化が4月にありました。COVID-19の影響から医療崩壊を防ぎ、受診困難な患者の受診機会を守るために、政府は時限的・特例的措置として「初診から電話及びオンラインによる診療」を行うことを認めました。
従来オンライン診療は、外来診療に比べて取得できる情報が限られているため、外来の「補完的サービス」として位置付けられています。実際、算定するための制約も多く、点数も外来と比べて低く設定されています。また、オンライン診療では、検査も処置も手術もできず、実際の診療に比べると大きな制約があるため、利用は限定的と考えられてきました。
今回の時限的措置により、算定の制約のほとんどが一時的に解除され、オンライン診療の利用シーンが広がると、一気に脚光を浴びたのです。
具体的には、これまで慢性患者の再診に限定されてきた電話及びオンラインによる診療が、4月10日の厚労省事務連絡により、初診から認められることとなりました。この通知を境に、オンライン診療は時限的とはいえ、「疾患」も「対面期間」もほとんど制限なく利用が可能になったのです。
厚労省、「オンライン診療」のリストを公表
また、2020年4月末には厚労省のホームページで、「電話及びオンライン診療に対応する医療機関リスト」が公表されました。厚労省がこのようなリストをホームページで公開するのは異例のことです。このリストを頼りに、患者が電話やオンライン診療のできる医療機関を探すとなると、患者による医療機関選別が始まるきっかけになる可能性がありました。
厚労省の医療機関リストを確認する限りでは、いまのところ設備投資なく、すぐに始められる電話診療が先行しています。コロナ禍で外来患者の大きな減少により医業収入が減少している状況では、オンライン診療への投資は抑えたいと考える医療機関も多い状況があったのでしょう。
オンライン診療に補助金を活用
4月のオンライン診療に関する大幅な規制緩和から約半年が経ち、コロナの収束が起きていない現状では、引き続き時限措置が続いています。オンライン診療を始めるにあたって、厚労省の「感染症対策等の補助金(医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援事業)」や経産省の「IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)」の活用が進んでいます。オンライン診療に対する投資を抑えたいと考えている診療所による積極的な活用が始まっています。
LINEヘルスケアのサービスリリース
また、先に発表された「LINEヘルスケア(LINE株式会社と株式会社エムスリーが共同で立ち上げた会社)」の無償版オンライン診療サービスのリリースが、いよいよ2020年11月にリリースを予定しています。これもオンライン診療の普及に大きなインパクトがあると、すでに多くの診療所から事前予約が入っているとのことです。
暫定的なオンライン診療の規制緩和、政府は恒常的に認める考え
今回、暫定的にオンライン診療の利用範囲が拡大されましたが、それを「恒常的」に認めるかが次期改定の争点となっています。現在、政府の方針として「容認する」方向性が打ち出されており、2022年改定で「オンライン診療」は大幅な規制緩和が打ち出されると考えます。具体的には今回のCOVID-19対応の内容をベースに、安全性の確保を行いながら、規制緩和を行っていくのではないかと思われます。
また、政府は電話診療とオンライン診療を明確に分けたいという意図もあり、オンライン診療の点数の引上げも視野に入れているのではないかと考えます(現在は電話診療よりもオンライン診療の方が低い)。
なかなか進まないオンライン診療、LINEが風穴を開けるか
オンライン診療の普及にとって、追い風が吹く中、なかなか導入が進まない背景は、「診療報酬点数の低さ」や「導入コスト」、「患者・医療従事者のITリテラシーの低さ」などが挙げられています。「オンライン診療を導入したもののあまり使われていない」という声も多く聞きます。また、情報が限られているなかで、オンラインで診療を行うことに対するリスクは現場の医師にすべてあり、そのような状況からおっかなびっくり使っているというのが正直のところでしょう。
今回、満を持してリリースされるLINEヘルスケアのオンライン診療サービスはオンライン診療の普及にどのような影響を与えるのでしょうか。
若者から高齢者までまんべんなく使える
現在のLINEのユーザー数は約8,300万人とされており、若者から高齢者まで幅広い年齢層で利用されている国内最大のSNSツールです。オンライン診療のハードルの一つである、ITリテラシーについても、普段から使い慣れたLINEであればクリアする可能性は高いのではないでしょうか。
また、既存のオンライン診療サービスは、専用アプリのインストールやアカウント登録が必要であることが多く、その点も普及のハードルになっていました(最近では、アプリのダウンロードがいらいないWebブラウザータイプも出てきています)。LINEはすでに利用済みのアプリをそのまま利用できるため、この点でも導入ハードルが低いと予想されます。
患者、医療機関ともに無料
オンライン診療の導入が進まないもう一つの原因は、システム導入や運営にかかるコストが発生することです。既存のオンライン診療サービスは導入の初期費用や月額費用がかかるサービスがほとんどです。また、たとえ導入費用、月額費用が無料だとしても、患者側に1回の診療につき費用が発生しています。
LINEヘルスケアが提供を始める無償サービスは、患者側も手数料が無料というのは導入ハードルを一気に下げる効果があるでしょう。
新しいものを恐れる医療業界
一方で、LINEヘルスケアのオンライン診療参入には否定的な意見もあります。医療での実績があまりないLINEヘルスケア(共同運営のエムスリーは十分あるが)は、「黒船来航」のように、常識にとらわれない、過去の慣習にとらわれない動きをするのではないか、無料だから個人情報や診療情報を吸い上げられてしまうのではないかという、新しいものへの恐怖です。
また、LINEヘルスケアの「健康相談」サービスでは、過去に特定の医師が不適切な回答をしたという報道もあり、その点も不信感を高めています。
LINEヘルスケアが今後オンライン診療サービスとして選ばれるためには、コストや患者への親和性というメリットとともに、医療業界で生きていくための「信頼性」そして「安全性」が不可欠といえるでしょう。
「無料」であればオンライン診療に新たな光が
オンライン診療サービスが「無料」で利用できれば、ぜひ利用したいと考える診療所は多くいます。それはオンライン診療ではなく、オンライン相談として、外来受診の前の問診として利用したいと考えるニーズです。
対面診療とオンライン診療を比較すると、得られる情報の差や、検査・処置ができないため、導入しにくいと考えられてきましたが、対面問診とオンライン相談と考えると、その差は一気に縮まるように感じます。また、電話で相談することに比べれば、はるかにオンライン診療の方が得られる情報量が多いため、一気に利用イメージが高まるとのことです。
ここで大切な議論は、オンライン診療をどのように活用し、患者の利便性を高めるかという問題です。オンライン診療、そしてオンライン服薬指導は、新たな医療の形を模索する中で生まれた一つの流れであり、デジタル化の遅れが目立つ、医療業界において起爆剤になり得ると考えます。
いまから20年前、電子カルテが世に出た時もそうでした。「電子カルテなど普及するはずがない」「紙カルテの方が使いやすい」という声が多く聞かれました。
そのような逆風の中、時代の先を読み、新しいことに果敢にチャレンジする「勇気」ある医師が利用を開始しました。今となっては診療所の約5割に普及し、電子カルテを導入するのが当たり前の時代となりました。今回のオンライン診療も、政府の環境整備、民間企業の創意工夫により、新たな時代への扉が開かれるのではないかと期待しています。
(MICTコンサルティング株式会社 大西 大輔)