急性期医療におけるタスク・シフティング
「医療の質」向上や収益アップに繋げる!
「7対1」退出を機に病棟での専門職配置やサービスを再検討
地域中核的な高機能病院や大学病院等は別として、全国的に数多く存在する「7対1」急性期病院にとって要件の厳しい同入院料1届出に固執することが果たして得策なのかどうかを今一度、考えてみたい。
(加算等は別にして)1ベッド当たりの報酬単価は、従来の「7対1」と同じ点数の同入院料1(1,591点)と、同入院料2(1,561点)とでは30点の差しかなく、同入院料1と同入院料3(1,491点)でも100点、要するに患者一人当たり1,000円の違いしかない。同入院料1と2では単純に月9,000円、同入院料3だと3万円の収入増にしか繋がらないのだ。そうすると、前回で示した最低「7対1」に加え、厳しい条件をクリアして同入院料1を届出するよりも、規模の小さな中小民間病院等は、「10対1」以上の看護配置により、同入院料2・3を算定した方が、病院経営的にはメリットが大きいとの考え方も出来なくはない。
幾つかの民間病院の病棟再編に係る医業経営コンサルタントは、次のように話す。
「苦労して“7対1”(同入院料1)に拘泥するよりも、“10対1”の上位ランク・同入院料2を目指し、余った看護職員を入退院支援ナース等にシフトして、入退院支援加算の届け出や、同一法人系列の訪問看護ステーションの拡充、介護サービス事業、地域包括ケア事業等に配置転換し活用した方が経営効率も良く、更なる収益向上も期待できる。」
要するに、看護業務のタスク・シフティングやワークシェアリングの推進であるが、今改定から「入退院時の連携」を評価した報酬の幾つかで、入院医療機関が連携先の医療機関と「特別な関係」にある場合も、算定出来るようになった。また、急性期以外に地域包括ケア病棟等を有するケアミックス型の場合、同一敷地内にある訪問看護サービスの併設等も同病棟の要件として入っているので、看護職員を訪問看護等に配置転換する意義は理解出来る。医療法人全体として捉えると、タスク・シフティングのメリットは無視出来ない。
見方を変えると、病棟での看護配置を「7対1」から「10対1」へシフト・ダウンする代わりに、PT、OT、ST等のリハビリ職や、薬剤師、管理栄養士等のコメディカル職とのチームアプローチにより、個々の専門職が専門能力を発揮し、従来よりも「質の高い」入院医療を提供することも可能になるのだ。
ひいては、そうした取り組みが「病棟薬剤業務実施加算」や「栄養サポート加算」、「入院栄養食事指導料」、「摂食障害入院医療管理加算」等への算定に結実すれば、結果的に医業収入アップに繋がる。 今改定では、「7対1」からの退出を図る一方で、他にメリットを与える診療報酬上の仕組みが数多く導入されているのが特徴とも言える。 既に病棟におけるナースステーションの標示を外し、スタッフステーションへと付け替える病院も現れ始めた。あえて厚生労働省の尻馬に乗って、専門職のスタッフ配置や、病棟機能やサービスの再検討を行ってみてはいかがだろうか。
DRG方式の「短期滞在手術」算定、医療機関には“向かい風”の評価
医療機関別係数の基礎係数(医療機関群の設定等)では従来の3区分の医療機関群の設定方式を維持すると共に、医療機関群の名称は「I群:大学病院本院群」「II群:DPC特定病院群」、「Ⅲ群:DPC標準病院群」へと変更された。新分類となるII群の基準値は前年度の大学病院本院群の基準値をベースに設定される。なお、実績要件I(診療密度)に関しては、後発品医薬品導入の促進を目的に、医療機関毎の使用薬剤を、最安価な後発医薬品に置き換えて算出することになる。
加えて、「各係数の評価手法について必要な見直しを行う」等の改正点もある。 厚生労働省は、これらDPC制度(DPC/PDPS)に係る見直しに関して、「急性期入院医療の評価見直しに伴う必要な見直し」と位置付けている。 DPCに連動した診療報酬項目としては、「短期滞在手術等基本料」が存在するが、DPC対象病院に関しては「DPC/PDPS」の包括評価を優先。「短期滞在手術等基本料2・3」の算定が不可能になった。「短期滞在手術等基本料2・3」を従来、算定していた医療機関はDPCの評価は行われるが、「平均在院日数の計算対象」からは除外される。 これらDRG方式の算定件数が多く、平均在院日数短縮に貢献していた病院にとっては、非常に厳しい見直しだ。
この他にも、睡眠時無呼吸症候群(終夜睡眠ポリグラフィー1・2)、白内障手術(水晶体再建術2)、腋臭症手術2皮膚有毛部切除術等も「短期滞在手術等基本料3」の評価から除外され、厳しい向かい風となった改定と言える。
(2018年06月07日)