厚労省が重視する介護難民の受け入れ先としての役割

「介護医療院」の施設要件や介護報酬について言及する前に、前回に続き新設加算の“目玉”とされる「移行定着支援加算」(以下、同加算)の狙いについて考えてみたい。

確かに、「1年間限定」の臨時ボーナスのような新機軸であり、介護療養病床や介護老健に対しての「転換」支援策であるのは間違いないのだが、算定における「介護医療院を開設した旨についての地域住民への周知、入所者や家族への丁寧な説明」と、「地域住民と入所者・家族との交流のための地域行事や活動等への積極的な参加」という2つの条件に注目したい。この条件を端的に言い表すと、介護医療院についての「広報活動の実践」である。前者は、正に広報・情報提供活動そのものであるし、後者に関しても広義に解釈すると「広報活動の一環」として捉えることは可能だ。それでは、なぜ厚生労働省は“介護医療院についての広報活動が必要”と考えているのだろうか。

介護医療院の基本報酬や算定要件の内容等に関しては複雑なので後述するが、(I型)・(II型)のいずれもサービス費のランク毎に「喀痰吸引、経管栄養、インスリン注射実施者の割合」や「重篤な認知症高齢者の割合」、「ターミナルケア該当者の割合(III型はターミナル体制の整備)」等、具体的な数値を含めた厳格な入所者要件が示されている。

これらの内容を検証すると、厚生労働省が介護医療院の入所者として想定するのは、喀痰吸引、経鼻胃管、重度糖尿病、重度認知症、ターミナルケア等の医療依存度の極めて高い要介護高齢者であるのは間違いない。「介護が必要なものの介護家族のいる自宅でも病院でも、施設でも介護を受けることが出来ない」方々。マスメディア等で安易に流布している言葉を使わせて頂くことをお許し頂きたいが、要するに「介護難民」と呼ばれる人たちだ。厚生労働省の発表によると、高齢者・障がい者(児)も含めると、2012年段階で、わが国には約550万人の介護難民が存在し、年々増加の一途を辿り、地域包括ケアシステムの目標年次である2025年には、約700万人にまで増えると推計されている。2025年の日本の人口予測は約1億2,000万人であるため、人口の約5.8%を介護難民が占めるというのは衝撃だ。同省が大きな社会問題として捉えているのは間違いない。

筆者は、7月1日時点で既に介護医療院の届出をした4つの病院を取材したが、そのうち3施設は同グループに社会福祉法人を有し、特別養護老人ホームを運営。特養に入所する高齢者の中で特に医療依存度の高い高齢者を新設の介護医療院に移行する手続きを始めていた。前出・同加算の条件にある広報活動に関しては、厚生労働省の「特養ホーム等の施設ではケアの難しい介護難民の方々は、介護医療院で優先的にケアして欲しい」というメッセージであり、その役割や機能を地域住民に周知させて欲しいとの意味合いがあるのだと思う。筆者は新しい介護医療院の現場を取材する中で、そのことを確信し、厚生労働省の同加算算定に係る条件設定には、極めて正当性があると考えるに至った。

全入所者に算定可能な同加算の新設を、単なる臨時ボーナスや移行支援策として捉えると、その本質は非常に見え難いものになる。

「県で第一号の介護医療院」というニュース価値

地方都市のA病院は約80床規模の「転換型」介護老健を全て介護医療院に再転換したが、開設前にMSWと広報担当の事務職員がコンビを組み、地域の自治会や町内会、地元企業、公民館、介護サービス事業所等を次々と訪ね、介護医療院の機能や役割、介護老人保健施設との違い等を丁寧に説明し回った。更に、オープン後すぐの日曜日に内覧会の日を設定し、地域の人たちに介護医療院の役割をアナウンスする場を設置すると同時に、県下では第一号の介護医療院であり、地元TV局や新聞記者等にも声をかけて、介護医療院の役割と目的、機能などを簡潔にまとめたプレスリリースを配布した。

その結果、地元紙が予想よりも大きなスペースで取り上げてくれることになり、掲載後に問い合わせが殺到、知名度が一気に高まることになった。このように、医療資源の乏しい地方都市では、地域密着型病院と地元マスコミとの親和性が高く、大都市等と比較すると毎日の目立ったニュースも少ないことから、未知の施設に対しては好意的に取り上げてくれる可能性が高いと考えられる。

A病院のMSWは筆者の質問に対し、次のように語ってくれた。

「介護施設の機能分化等に関し、余り詳しい知識や関心の乏しい地域の高齢者に、介護医療院の役割がどの程度、理解されたのかは、正直言ってよく分かりません。ただ、地域の介護事業所のケアマネージャーさん等からの問い合わせは頻繁にきますし、一部のかかりつけ医の先生方からも独居の高齢患者さんの紹介がありました。やはり、“行き場のない”高齢者の方々が、この地域で一定数確実に存在し、困っておられる家族の多いことを実感しました。ただ、私たちのような中小病院はマスコミに取り上げられる機会は余りないので、県下第一号ということで取材を受けたのは驚きでした(笑)。」

マーケットの小さな地方都市の中小病院は広報活動の経験に乏しく、また6月30日時点に全国で届出した21の医療機関が、どの程度マスコミ対応に力を入れたのかは定かでない。しかし、「県下第一号の介護医療院」というキーワードはニュースバリューがある筈で、プレスリリースを作り、当該自治体の記者クラブにそれを配布すれば、幾つかのマスコミが紹介してくれる可能性が高い。実現すると、介護医療院だけでなく併設する病院の知名度アップにも繋がることになる。しかし、開設後、時間が経過すると新聞やTV等のニュース価値は段々と薄まっていくので、導入した医療機関は間髪を容れずにメディア対応を行っていくことが必要だ。

筆者が7月に取材したJA愛知厚生連足助病院(190床)は、42床の介護療養病床(機能強化型A)を全て介護医療院に転換した。同院では、同加算算定で求められる広報活動に関しては、ホームページの掲載だけでなく、季刊の広報誌「あすけあい」で2号にわたって「介護医療院開設のお知らせ」を掲載。また、同院患者の大半は母体のJA組合員であることから、地域のJA等を通じた広報誌の配布や情報提供により、その役割や機能を地域に周知・浸透させることが出来た。

さて、経過措置対象病棟の介護療養病床、医療療養2(25対1)を有する病院の多くは、今後の方向性が未定の病院が多かった中で、同時改定後は“潮目”が変わり、徐々に介護医療院に傾く医療機関が増えてきたようにも思える。

介護医療院導入は新設された介護報酬の高単位の加算だけでなく、連携する医療機関の算定する診療報酬加算や在宅復帰率向上等に対し、プラスに働く相乗効果が大きいことが明らかになっている。次回からは、診療報酬も含めたメリットや、施設要件、入所者要件等について言及する。(次回に続く)

(2018年10月12日)