動き出した「介護医療院」~7月までに21医療機関1,400床が導入

~早期転換の決め手はW改定による経済誘導

2015年に設置された厚生労働省「療養病床の在り方等に関する検討会」において議論が煮詰められ、(1)長期に療養生活を送るのに相応しいプライバシーの確保、家族や地域住民との交流が可能となる環境整備(『住まい機能の強化』)(2)経管栄養や喀痰吸引等、「日常生活上必要な医療処置」や「充実した看取り」を実施する体制‐等を備えた機能の施設として、2018年4月に誕生した「介護医療院」。

既に2018年2月には「介護医療院」の介護報酬や施設基準、要件等も明らかになり、現行の療養病床(主に25対1)や転換型・介護老健施設等から転換する病院の動きも見えてきた。

2018年4月30日時点の「介護医療院」届け出は5施設(383療養床)だったのが、6月30日時点では21施設(1,400療養床)にまで増えた。1,400床の内訳としては、(I型)が781床、(II型)が619床(図表1)となる。

7月末段階で筆者は既に届け出を行った幾つかの「介護医療院」を現地取材したが、4~6月の間の早期に転換を実現した施設には何らかの共通項が見られる。それに関しては後述するとして、早期転換の最大のインセンティブとしては、やはり2018年4月に実施された診療報酬・介護報酬W改定の内容を見て判断した事例が、多くを占めているのは間違いない。

要するに、厚生労働省は2011年の介護保険法改正により介護療養病床や医療療養病床(25対1)の廃止・転換期限を、2017年度末にまで当初の計画よりも6年間延長することを決定したが、今改定では、その経過措置期間を更に6年間延長し、2023年度末まで継続することになった。しかし、これら経過措置対象病棟、あるいは転換型老健のままで推移すると、経営的にじり貧になることが予想されることから、早期転換に踏み切った事例が少なくないのだ。

更に2018年末までに介護療養型医療施設から介護療養型老健への転換を実現した施設は、大きな施設リニューアルの必要はなく、入所者等の状態についても喀痰吸引・経管栄養、更に重度の認知症高齢者の割合等に関し、今回の「介護医療院」の要件と共通する部分が多いので、スムーズに移行することが可能だ。

加えて、今改定での「介護医療院」に係る介護報酬では従来の介護療養型医療施設や(転換型)介護療養型老人保健施設等でも算定可能だった報酬項目が多いのだが、転換に伴い新たに「介護医療院」だけに創設された「再入所時栄養連携加算」、「緊急時施設療養費(緊急時治療管理)」、「重度認知症疾患療養体制加算」、「移行定着支援加算」の4つが注目される。 これらの新機軸は総じて高点数であり、「移行定着支援加算」を除くと、特養や介護老健よりも要介護度が高いか、または医療依存度の高い人に対応可能な施設でなければ算定が難しいものであり、当該施設にどのような方が入院(入所)しているのかが問われることになる。

この4つの中で最大の目玉として注目されるのは「移行定着支援加算」(93単位)であり、それは個々の入院(入所)される方の状態や介護度とは関係なく、求められる条件を満たせば全ての患者(入所者)に算定出来ることだ。

加速する「介護医療院」転換への流れ

W改定に遡る2017年10月に、独立行政法人福祉医療機構が療養病床を有する病院を対象に「療養病床の今後の方向」に関するWebアンケート調査を行ったので、その内容の一部を紹介する。

同調査は2017年8月9日~25日の期間、663法人に及ぶ「療養病床を有する病院」に対して実施されたもので、有効回答数175件(有効回答率26.4%)。 そのうち療養病棟入院基本料I(療養1・20対1)を届け出している病院は経過措置対象病棟ではないが、今後の転換予定に関しては、「転換しない」との回答が72.2%を占めた一方で、「転換する」との回答は11.1%に留まった。

療養1で「転換する」と回答した中の半数は「地域包括ケア病床」を転換先としており、このうち約85%の病院は2017年~18年度中での転換を予定していた。 一方で、療養病棟入院基本料II(療養2・25対1)を届け出している病院は介護療養病床と同様に、2018年から6年間の経過期間での転換を余儀なくされている。転換先としては「医療療養1や一般病床(13対1、15対1等)、地域包括ケア病床、回復期リハビリテーション病床等」(医療強化)とした回答が約50%を占めた。

療養2のうちで「介護医療院や介護老人保健施設等への転換」(介護充実)が4.5%、「療養1と介護医療院との組み合わせ等、医療強化と介護充実のいずれも視野に入れている」(医療・介護)が15.9%を占めており、医療強化の方向で検討している病院が半数を占める一方で、「未定」と決めかねている病院が約29.5%とそれに次ぐ数字だ。 療養2では60%以上の施設で「看護職員」、「看護補助者」の確保が困難と回答。また、患者の確保面での課題としては、「施設基準を満たせない」(63.6%)、「病床利用率が低い」(43.2%)、「重度ニーズの増大」(36.4%)と続く。

2016年度の診療報酬改定で医療区分2・3の割合(50%以上)が要件化された。この施設基準を満たすために必要な患者確保に苦労する実態が浮き彫りとなっている。

最後に、介護療養病床(療養機能強化型A・B、その他)を届け出している病院(介護療養)の転換先として「介護医療院I型」が約46.2%と最も多く、「介護医療院II型」、「介護老人保健施設」等も含めて、「介護充実」を転換の方向性として考えている病院が約34.6%、「医療・介護」(医療療養1と介護医療院の組み合わせ等)を選択肢としているのが約15.4%という結果だった。合計すると、介護療養病床を有する半数以上の病院が新しく誕生した「介護医療院」への移行を視野に入れていることが分かった。ここでも未定が、30%以上を占めている。

この段階の介護療養病床では、医療療養2以上に看護職員、介護職員等の人材の確保が困難であり、患者確保面の課題としては「重度ニーズの増大」(57.7%)と最も高く、次いで「施設基準が満たせない」(42.3%)、「病床利用率が低い」(34.6%)と続く。 この時期の介護療養病床に関しては、重篤な身体疾患を有する患者や、認知症高齢者のニーズが増大しており、現状での体制では対応が難しいことから、「介護医療院」への転換を模索する病院の多いことが、この結果から見えてくる。

前述のように、このアンケート調査は2017年8月段階に実施されたもので、2018年4月1日にスタートした「介護医療院」に係る介護報酬改定の内容は、当然明らかになっていない段階。当該調査から、もうすぐ1年を迎えようとしているが、医療療養1・2、介護療養病床を有し、方向性を未定としていた病院の多くが、経済誘導により流れとしては「介護医療院」への移行に大きく傾き始めていると推測される。

「移行定着支援加算」は「介護医療院」誕生の1年間限定バースデイプレゼント

「今回の介護医療院に係る介護報酬改定の最大の目玉は“移行定着支援加算”であることは間違いない。

当院は2年前に介護療養型医療施設87床を既に介護療養型老人保健施設に転換していた。それにより、夜間の日常的な医療処置、看取りへの対応、急性増悪時への対応等の医療ニーズに対応するようになったことから、スムーズに介護医療院へ移行することが可能。近々87床全てを“老健施設相当以上”以上の介護医療院II型に転換する予定だ。

介護医療院に係る新設項目は、当院の機能を検証した上で順次算定する予定だが、移行定着支援加算だけはすぐに届け出する。移行定着支援加算算定だけで約3,000万円に近い増収となる」と語るのは、地方都市・B病院の事務長だ。

「移行定着支援加算」はI型・II型等の機能に関係なく、また個々の入院患者の要介護度や状態等に係らず、介護医療院であれば入院患者全員に算定出来る。 「転換を行なって介護医療院を開設したこと等の旨を地域の住民に周知すると共に、当該介護医療院の入所者や、その家族への説明に取り組んでいること」と、「入所者及びその家族等と、地域住民等との交流が可能になるよう、地域の行事や活動等に積極的に関与すること」等の、広報活動に取り組んでいること等が条件。

これら広報活動に関しては、次回で病院の事例を取り上げて具体的に紹介する。

転換型老健から移行するB病院の場合だと算定した場合、仮に満床として「930円(93単位)×87床×30日」=242万7,300円が1カ月の収入増。年間に換算すると2,912万7,600円の増収となり、これは大きい。但し、移行定着支援加算は「届出後1年間しか算定出来ないし、介護医療院の認知度の高まると考えられる2021年3月末まで」の期限が設けられている。要するに、それを過ぎると新規届出は受け付けないということである。 露骨な誘導策であることは明らかだが、「介護医療院」という鳴り物入りで誕生した新しい施設に対して、厚生労働省からの「1年間限定」のバースデイプレゼントと考えれば分り易い。

(2018年09月07日)

 

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