病院と「介護医療院」連携に向けた両者合同研修会の開催

地方都市の医療法人S会は一般病棟に加えて、地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟、医療療養病棟等、複合的な機能を有する200床未満のS病院を運営しているが、2019年の早い時期に同法人が別に運営する介護老人保健施設(84床)を、全床「介護医療院」に転換する予定だ。同法人では3年前に介護療養病棟84床を、介護老健施設に転換していた。来年に当該老健施設を「介護医療院」へ転換することを受けて、S病院の会議室では、10月某日の昼下がり、東京から診療報酬・介護報酬の両方に精通した専門家(医事系の医業経営コンサルタント・診療情報管理士)を迎えて、院内研修会が行われていた。

参加するのはS病院の病院長・副院長と看護部長に加え中堅看護師、臨床栄養部長、医事課職員。及び、新設の「介護医療院」に勤務予定の婦長や中堅看護師、管理栄養士、事務職員ら総勢、20数名のメンバー。研修テーマは「介護医療院と病院との連携による診療報酬・介護報酬のニューウエーブ」。要するに、2018年の同時改定で新設された病院と介護医療院との連携に係る新設項目を整理し学ぶことによって、両施設の連携強化に繋げようというのが狙いだ。

S病院の院長は次のように話す。「私たちは3年前から介護老健を運営してきたが、“S病院との連携が重要”と口で言うのは簡単だが、同一グループの施設なのに職員一人ひとりは別の職場で働いている感覚が強く、一体感が生まれ難かった。実際に介護老健利用者の医療依存度が高くなり、S病院の入院に移行する場合でも、医師が紹介状を書くのに慣れておらず、トラブルを招くこともあった。寧ろ転換前の介護療養病棟として運用していた時の方が、同一病院として連携は取り易かった。今回の研修会は、診療報酬・介護報酬の新設項目算定を目標にして、両者の意識共有を図り、円滑な連携を進めることを目指し企画したものだ。」

管理栄養士の連携業務を評価「再入所時栄養連携加算」に注目

さて、「介護医療院」創設に伴い新設された介護報酬で、病院との連携が重要なポイントになるのは、「再入所時栄養連携加算」(400単位/回)。同加算は、「介護医療院の入所者が連携する病院に入院し、経管栄養または嚥下調整食の新規導入等について、介護医療院の管理栄養士が病院における栄養食事指導に同席し、介護医療院へ再入所した場合、1回限り算定出来る」というもの。400単位の高評価だが前提条件として、「栄養マネジメント加算(14単位)」を算定しているのが必要条件。栄養マネジメント加算には「1名以上の管理栄養士の配置」や「栄養ケア計画に基づく個別的栄養管理」、「栄養ケア計画の進捗状況の評価」等、栄養マネジメントの一定の「質の担保」が求められる。そうした機能を備えていない「介護医療院」に、厚生労働省は「再入所時栄養管理加算算定は認めない」との厳格な姿勢が見て取れる。加えて今改定で、「栄養マネジメント加算」に関して、一つだけ重要な見直しが実施された。

それは、従来の介護保険施設では認められていなかった「同一敷地内の介護保険施設との栄養マネジメントを兼務した場合でも、(兼務は)1施設に限り算定を認める」というものだ。「介護医療院」だけでなくグループホーム、小規模多機能型居宅介護等、複数の介護施設を運営する医療法人も少なくない。管理栄養士が同一施設内の他施設との兼務でも「栄養マネジメント加算」を算定出来るようになったことは、人材の確保・定着に苦労し、少ない人材をやり繰りする地方の医療法人にとって朗報と思われる。

この要件緩和により、「再入所時栄養連携加算」が算定可能な「介護医療院」の裾野が拡がっていくことに繋がる。前出・S会の合同研修会でS病院及び(来年、新設の)介護医療院に勤務予定の管理栄養士が参加していたのは正に象徴的。同加算算定に向けて両施設の管理栄養士による連携強化が欠かせないというわけだ。この他、「介護医療院」における重度認知症への対応を評価した「重度認知症疾患療養体制加算1・2」でも「精神保健福祉法で定められた体制の整っている病院と連携し、入所者の速やかな入院が可能であったり、当該精神科病院から週に4回以上、医師の診察が行われる体制が整っている」場合に算定出来る。同加算1・2は精神科を併設する病院が「介護医療院」を開設した場合に、算定し易い新機軸と考えられる。

本来の役割の形骸化が危惧される介護老人保健施設の行く末

続いて、介護医療院との連携により、診療報酬における算定項目を検証したい。ここで一番、重要なポイントは介護医療院が「自宅と同じ扱いになる」ことだ。

S病院を例にとると、一般病棟以外に地域包括ケア病棟と回復期リハ病棟、医療療養病棟を有するケアミックス型病院であることは前述した通り。今回の診療報酬改定で再編された「地域包括ケア病棟入院料1・2」は「在宅復帰率70%以上」が要求され、「回復期リハビリテーション病棟入院料1・2・3・4」にも「同70%以上」が求められる。S病院は対象ではないが、「急性期一般入院基本料1」は「同80%以上」が要件なので、更に在宅復帰率のハードルは高い。要求される「在宅復帰率の維持」は多くの病院実務担当者の頭を悩ませそうだが、今改定で介護老人保健施設を併設する病院にとってインパクトが大きかったのは、従来は「自宅」として在宅付記率にカウントされた介護老健が突然、「自宅扱い」から外されたこと。地域包括ケア病棟等からの退院先として介護老健が高い割合を占めてきた病院は、介護老健以外の転棟先を探さなければならない。これは厳しい。そもそも、居住系介護施設の少ない地方の過疎地域等では、新たな転棟先は簡単に見つかる筈はない。一方で、介護老健も地域包括ケア病棟、回復期リハ病棟等からの患者紹介がなければ当然、稼働率は低下するし、経営はじり貧に陥ってしまうのが目に見えている。

地方で150床の介護老人保健施設を運営する医療法人理事長は、嘆息しながら次のように憤る「この“梯子外し”は、余りにもアンフェア。1987年に最初のモデル事業が始まった時から、老健は退院から在宅復帰までの“通過施設(中間施設)”として制度設計された筈だが、これを自宅として認めないのは、中間施設としての役割の否定に繋がる。“介護医療院II型”が誕生したとは言え、ターミナルから見取りにまで対応する介護医療院と介護老健の役割は、大きく異なる筈だ。」

実際に「介護老人保健施設相当」とされる介護医療院・II型は、現状の制度下では上手く運営すると、非常に収益性が高いとされている。2018年からの3年間は「介護医療院」新設が認められず、当分の間は「転換型」老健を優先するようだが、それ以外でも、介護老健からの転換を希望する医療法人理事長らの声が、日増しに高くなっていくと推定される。いずれにせよ、日本の介護老健施設の殆どが「介護医療院」への移行を目指すような事態が起こると、本来の「介護医療院」の役割は形骸化するのが危惧される。厚生労働省は介護老健と介護医療院の役割を、どのように整理していくのだろうか。現状では余り明確な展望を描いているように見えないのが残念だ。

さて、少し脱線したが診療報酬において注目すべきは、「介護医療院」から地域包括ケア病棟に転棟した場合、受け入れた地域包括ケア病棟で算定可能な「在宅患者支援病床初期加算」(300点)。これは、「介護医療院」の入所者が在宅患者として扱われるからこそ算定出来る診療報酬だ。急性期病棟から地域包括ケア病棟に受け入れた場合の「急性期患者支援病床初期加算」(150点)とは大きな差が付けられている。

地域包括ケア病棟に対しては、今後「在宅からの受け入れ」を最優先するとの厚生労働省の明確なメッセージが伺える。

同様に“自宅扱い”となる「介護医療院」入所者が療養病棟に転棟した場合、受け入れ側の療養病棟を有する病院は新設の「在宅患者支援療養病床初期加算」(350点)算定が可能。「自宅から入院した患者に対し、治療方針に関する患者・家族等の意思決定に対する支援」が評価されるが、これら診療報酬の算定に向けても両者の“連携”は必要不可欠なキーワードだ。前出・S病院のように多様な病床機能を有する病院は、「介護医療院」との連携で、どのような診療報酬・介護報酬項目が算定出来るのかを今一度、整理し、要件をクリアするために「何をすべきなのか?」を再検討することが肝要だ。

(2018年12月10日)