多様な人材を生かす「ダイバーシティ・マネジメント」に注目

2019年7月に名古屋市で開催された「日本医療マネジメント学会」ではいくつかのユニークな講演会やシンポジウム等が行われたが、特に興味を持って聴き入ったのがミニシンポジウム「ダイバーシティの課題と展望」である。

「ダイバーシティ」とは一般的に「多様性」と訳される。“働き方改革”の文脈の中では、「性、年齢、国籍、人権、障がい、宗教等の異なる多様な人材を生かし、その能力を最大限に発揮させる機会を提供する。それがイノベーションを生み出し、新しい価値創造に繋げる組織のパフォーマンスを高める」というダイバーシティ・マネジメントの考え方が提示されている。

一般企業だけでなく医療・福祉領域においても既に一般社団法人「日本ヘルスケアダイバーシティ学会」が立ち上がり、同学会代表理事で当該シンポジウムの座長を務められた岡 敬二氏が理事長を務める(社医)敬和会では、法人で労働生産性向上やイノベーション促進を目指したダイバーシティセンターを創設、既に活動をスタートさせているというから驚かされる。

実際にヘルスケア分野は他業種と比較して、障がい者雇用については一番先駆的で「開かれた」業界でもある。一方で2018年に中央省庁が、義務付けられた障がい者の雇用割合を40年以上も恒常的に水増し・放置していた報道等を思うと、政府の言う「一億総活躍社会」という“掛け声”が空しく感じられるのは、筆者だけだろうか?

同シンポジウムでは外国人労働者や障がい者雇用に尽力する先駆的ないくつかの病院の事例報告が行われた。その中で、「同じ職場で働く仲間として、障がいを抱えた方は“特殊”ではなく“個性”として受け入れていく視点が大事」、「人口減少社会を迎えて、外国人労働者や障害を抱えた人たちの雇用は一つの経営戦略であり、マネジメント上の課題として捉えるべき」等の医療現場からの報告は、正に「正鵠を射た」意見と思われた。

さて、2018年度末に「出入国管理法」(入管法)が改正され、「特定技能」という在留資格を新設。2019年4月に同法が施行され「特定技能」第1号として14業種で外国人の就労が認められるようになった。そして、当該14業種の一つとして、「介護」が位置づけられた。もともと、看護師及び介護福祉士については、経済連携協定(EPA)に基づき、2008年以降からインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国から候補者の受け入れが始まっている。このように、「介護」や「看護」については複数の在留資格(ビザ)により、日本での介護労働に門戸が開かれるようになった。

これらの施策により、厚生労働省「外国人雇用状況」によると、外国人労働者数は直近の2018年10月末現在で146万463人、前年同期比で18万1,793人となり14.2%の増加。過去最高を更新した。厚生労働省は増加の要因として、「政府が推進している高度外国人人材や留学生の受け入れが進んでいること」、「雇用情勢の改善が着実に進み、“永住者”や“日本人の配偶者”等の身分に基づく在留資格の方々の就労が進んでいること」、「技能実習制度の活用により技能実習生の受け入れが進んでいること」等を挙げている。(図表1・2)

●外国人人材「受け入れ」の4つの在留資格EPA看護師の低い国家試験合格率

さて、医療・福祉領域における「外国人人材の受け入れ」の方法を見ると、①EPA(経済連携協定)に基づく受け入れ②資格を取得した留学生への在留資格付与(在留資格「介護」の創設)③技能実習制度への介護職種の追加④介護分野における「特定技能」の在留資格の受け入れ-の4つの道筋が現状、示されている。

①のEPAに関しては、2008年以降、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国から候補者の受け入れが始まっている。ただ、現実として医療・福祉現場で使える日本語能力習得のハードルの高さから、当初はこれらの国家試験合格率は低く、特に看護師の場合、医療機関における外国人人材受け入れがあまり進んでこなかった。

例えば、2019年度のEPAに基づく外国人看護師の日本の看護師国家試験合格率はわずか16.3%に過ぎない。これは、全体の看護師の国家試験合格率が89.3%であることと比較すると、顕著な低さであるのは言うまでもない。

ある地方の看護学校教員は合格率が低い理由について「日本語で国家試験を受けることの難しさに加えて、国によって看護教育の内容やレベルが異なり、外国では習得できない看護技術や実践が、日本の看護現場で必要とされることが多いように感じます。特に看護師に求められる専門性が極めて高くなっていると同時に、病院における医療安全管理の業務負担等に対して、言語面でハンディのある外国人看護師には対応の厳しい実態があるのかもしれません」と指摘している。

一方で、介護福祉士については2018年度までに前出の3カ国から累計4,302人の介護福祉士候補者を受け入れ、757名が資格取得を実現。2017年からはEPA介護福祉士の就労範囲に従来は認めていなかった「訪問系サービス」が新たに追加され、訪問介護等も実施できるようになり、今後、受け入れは進んでいくと思われる。(図表3)

全国の「介護」人材の慢性的な人手不足を背景に、国は5年間で(最大限)約6万人の受け入れを目指している。前出の④「特定技能」の14業種の中で「介護」は外食業(5万3,000人)、建設(4万人)、ビルクリーニング(3万人7,000人)、農業(3万6,500人)の目標を上回り、最も高い数字であることを考えると、「介護」人材不足の深刻さが伺える。

●日本との親和性が高いベトナム人人材 看護助手・事務職等へのリクルート需要高まる!

「特定技能」は改正入管法の目玉となるものだが、受け入れ対象国は現状、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア、ネパール、モンゴルの9カ国に限定される。ただ国は今後、対象国を徐々に拡大することに含みを持たせている。そして、「特定技能」の受け入れを巡っては、悪質なブローカーの介入防止等、外国人労働者の保護のために情報共有の必要性から、2019年4月より現在までの間に、当該9カ国のうち中国を除く8カ国との間で二カ国間協定を締結している。

現状でも日本で最大の外国人労働者数となる中国との間で、未だ(8月1日現在)に二カ国間協定が締結されない理由については、国による十分な説明がなく不明だ。他の複雑な外交問題も絡んでくるだけに、ここで安直な言及は避けたい。

当該9カ国を個別に見ると、既に看護師・介護福祉士が活躍するEPAと同様にフィリピン、インドネシア、ベトナムの3カ国が入っていることが注目される。特に、前述したような理由で、医療・福祉経営者のベトナム人人材「受け入れ」に対しての関心は顕著に増している。(公社)全日本病院協会は2019年から、「ベトナム及びミャンマーから、1年間の日本語教育を修了した看護師資格者を受け入れて、日本の介護施設等で活用する」事業をスタートさせている。

「ベトナム人労働者は一般的に非常に勤勉であり、日本に来る前から日本語を習得している人が多いので、即戦略で仕事が可能な人も多い。また、日本と同じ仏教国でもあり親和性が高く、高齢者に優しい若者が多いことから、患者さんや介護施設利用者の評価も非常に高い。実際に母国で看護師資格を持つ人は一定の専門的技術があるのは間違いなく、私たちの施設で働いてもらうのは魅力」と語るのは、既にベトナム人介護職や看護助手を導入している某医療法人理事長だ。

それでは、医療機関における外国人人材のニーズが高いのは、どのような職種になるのだろうか?地方の某民間病院事務長は次のように指摘する。

「介護職以外ではズバリ言って、中小民間病院の看護助手と事務職等の無資格職だ。全国的に病院の看護助手の安定的な確保には困難を極めるし、一方、私たちのような地方の病院は若い事務職員の採用には本当に苦労する。人口減少で“売り手市場”の時代を迎えると、医療機関は国家資格の高いハードルがない無資格職の優秀な人手を当面、“外国人”人材に求めるようになるのではないか。」

次回では、制度論から離れて医療・介護現場における外国人労働者の環境整備の問題を検証していきたい。

(2019年9月5日)