医療・福祉における外国人人材の活用と「ダイバーシティ・マネジメント」(下)

介護人材供給源として機能する「留学」と「技能実習」

一方で制度の悪用等による“歪み”も顕在化

さて、本稿の前回・前々回ではわが国の現状における医療・介護領域での「外国人人材」受け入れの方法として、主に①EPA(経済連携協定)と④特定技能について紹介したが、今回は未だ触れていない②資格を取得した留学生への在留資格付与(在留資格「介護」の創設)③技能実習制度への介護職種の追加の2つについて言及したい。端的に言うと②は「留学」、③は「技能実習」の在留資格で働く外国人労働者のことだ。ただ、いずれも入国前の費用を捻出するために、外国人労働者の多くは多額の借金を背負って来日するケースも少なくないようだ。

②は2017年9月1日施行・入管法の追加改正により、日本の「介護福祉士資格を有する者」を在留資格「介護」として創設したもの。それ以降、「介護ビザ」が発行されるようになり、外国人留学生が留学中に介護福祉士の国家資格を取得した場合、「介護業務に従事することを前提に、日本で長期間、滞在すること」が可能になった。

その結果、介護福祉士養成校の定員数・入学者数は年々、減少の一途を辿っているにも係わらず、外国人留学生に関しては2014年の17人から毎年、増加傾向で推移しており、2018年度は1,142人となり、今後も増加の一途を辿ることは間違いない。

そして、これら外国人留学生出身の介護福祉士が国家資格取得後、全国の介護サービス事業所や施設等で活躍する姿が目立つようになり、介護人材の供給源として、国や事業所からも大きな期待を寄せられるようになっている。ただ、外国人労働者の問題を取材してきた記者によると、「現実の環境として入国にコミットする日本語学校等が実質的にブローカー的な役割を担い、日本語学校と就労先とが結託し、留学ではなく就労が目的となってきた実態もあり、就労先から違法な過酷労働等を強いられるケースが数多く報告されている」とも指摘する。

一方③の「技能実習制度」は国際貢献のために発展途上国の外国人を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れる仕組み。本来は技能実習や教育を目的に外国人の在住を例外的に認めてきた制度だが、報酬が伴う実習も可能とされた。そのため、企業が事実上の労働者として低賃金の単純労働で活用するケースが後を絶たないため、一般企業が制度を悪用するグレーゾーンとも見られている。2018年10月現在、外国人労働者が全体の約21.1%と高い割合を占める一方で、劣悪な労働条件を強制する事業所等の事例がメディアで報道され、制度上、転職ができないことからも社会問題化する状況も顕在化してきた。

国内外の反社会的勢力がブローカーとして暗躍し介在するケース等の報道もあり、これらの事態を重く見た政府は2017年11月より「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習の保護に関する法律」を施行することになった。

「地域医療介護総合確保基金」を外国人介護福祉士の養成支援に活用

それに遡る2017年9月、介護職種に「固有の要件」が告示された。そこでは、「技能実習制度本体の要件に加えて満たす必要のある」介護固有要件(図表)として、①コミュニケーション能力の確保②適切な実習実施者の対象範囲の設定③適切な実習体制の確保④監理団体による監理の徹底-の4つを追加。加えて、技能実習評価試験の内容にも言及され、①移転対象となる適切な業務内容・範囲の明確化②適切な公的評価システムの構築-が追加された。



極めて厳格な内容で、「固有要件」②③の中身を見ると、介護サービス事業者の中にも、従来から適切な業務が行われていない事業所や、適切な実習体制の確保がされていない事業所が含まれていた実態が垣間見える。当該要件では「介護福祉士国家試験の実務経験対象施設」であり、監理団体の役職者には「5年以上の実務経験を有する介護福祉士の配置」が求められている。実際に、2018年に新設された「特定技能」第1号も、ブローカー等が介在する可能性は避けられない。

問題の多い「技能実習」制度から「特定技能」への移行が進むと想定されるが、労働者の人権への配慮に乏しい「技能実習」の役割を受け継ぐものと、一部の専門家から不安視されているのも事実である。

医療・介護事業所等も今後、弱い立場にある外国人労働者に寄り添ったサポート体制の整備が急務であるのは間違いない。積極的に外国人人材の受け入れを目指す医療・福祉施設は、一部の医療法人グループ等が導入している「国際支援室」のような部門を設置し、外国人人材の受け入れから教育・育成、労働環境整備、日常生活支援まで長期的な視点で、一貫して取り組める体制づくりが必要とも思われる。

補助金のことにも触れると、前出の②「留学」が対象となるものとして、2014年6月に成立した「医療・介護総合確保推進法」に基づき、各都道府県で「地域医療介護総合確保基金」が拠出されるようになり、外国人介護福祉士の養成支援のために活用することが可能になった。それは2018年度予算の新規メニューとして始まった「介護福祉士の国家資格の取得を目指す外国人留学生の受け入れ環境整備事業」として創設されたものであるが、医療機関関係者にも内容があまり知られていない制度なので、一部ご紹介しておく。

全体の事業内容としては都道府県計画を踏まえて実施される①「参入促進」、②「資質の向上」、③「労働環境・処遇の改善」に資する事業を支援するもので、留学生に対しては奨学金等の支援を行う介護施設等に対して経費を助成する。補助額は原則、受け入れ介護施設等が給付する奨学金等の約3分の1を助成。当該留学生の日本語学校の学費や居住費、入学・就職準備金、国家試験対策費等に充当することが可能だ。

①「参入促進」の中には「介護福祉士国家資格の取得を目指す外国人留学生の受け入れ環境整備」との記述もあり、国には外国人介護福祉士参入を促進したい狙いがあることが分かる。③「労働環境・処遇の改善」では「管理者等に対する雇用改善方策の普及」等に加え、「施設内保育施設運営等の支援」や「代替職員のマッチング」等の子育て支援策も具体的に言及され、各事業者は長期的に日本で働きたい外国人介護「人材」のサポートに向けての有意義な使い方が可能だ。

積極的に外国人人材受け入れを目指す医療・福祉施設等には、ぜひ活用を検討して頂きたい補助金制度ではある。

(2019年11月13日)

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