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4月は新型コロナが病院経営を直撃 地域によっては15%前後の減収も 

京都新聞等の報道によると京都私立病院協会の府内30病院へのアンケート調査では、4月度の外来患者数は25病院で減少し、全体では平均19.9%減。入院は26病院で減少し、全体では平均9.3%減。「救急医療と新規外来の受け入れ」を停止せざるを得なかった病院も存在し、4月度の総収益では25%の病院が減収となり、全体では平均して14.6%のマイナス。30病院のうち7施設は20%以上の減収であり、最大で67.5%の減収という病院も存在した。

この他、各地方紙等の報道によると神奈川県病院協会が6月11日に公表した緊急調査(148病院から回答)では、4月度の新型コロナ患者を受け入れている病院の約8割が赤字経営を余儀なくされ、利益率では約13.1%のマイナス。前年同月日ではマイナス5,762万円(-11.4%)の悪化。全日本病院協会等が実施する同時期の全国調査の平均はマイナス3,698万円(約9%の赤字)であり、全国平均よりも相当に厳しい数字だ。

このうち、同感染症患者を受け入れている病院は31病院で、平均14.7%の赤字。同感染症患者を受け入れていない病院でも平均10.5%の赤字で前回でも紹介したが、感染への不安から、高齢者等が外来や健診の受診を控える動きが加速し、病院経営を直撃している様相が見えてくる。

もう一つ、沖縄タイムズが実施した沖縄県15の協力医療機関へのアンケート調査で、「半数以上の9病院は4月の医業収入が顕著に減少し、うち8病院はこの状態が長引けば、2020年度内に資金ショートを起こす」との報道があった。また、同県内開業医101人に対する沖縄県保険医協会の調査では「約9割の90人は4月の外来患者数が、2019年4月より減少し、うち3分の1が約3割~7割の減少」したことが報告されている。

2018年度医療経営実態調査では、医療法人病院の利益率は2.8%、診療所は6.3%しかないにも係わらず、10%以上の減収が多数を占めるのは“ただ事ではない”経営状況と言える。民間医療機関の資金ショート、倒産の多発等が危惧される「6月危機」の到来が現実味を帯びてきた。

地方厚生局の機能不全で診療報酬改定対応が後手後手に

日本医師会が4月30日に、「新型コロナウイルス対応下での医業経営状況等アンケート調査」を発表。この調査は病院125施設(一般:109/精神:16)、診療所468施設(有床診療所:44)から回答を得たもの(有効回答は項目毎に異なり、項目毎に明記)。

この調査で興味深いのは、新型コロナ禍における「経営上の課題」について医療現場の声が具体的に紹介されていること。その中から、「診療報酬算定上の問題」について、いくつかの切実な声をピックアップし紹介させていただく。

医療現場における診療報酬算定上の課題は、全都道府県医師会で「令和2年度診療報酬改定説明会を中止」した地域が74.5%に及び、「例年通り開催した」(6.4%)、「例年とは異なる方法で開催した」(8.5%)を大きく上回り、診療報酬改定に係る情報収集に大きく出遅れたこと。「例年とは異なる方法」で開催したのは4県医師会だが、その方法とは、「3月5日に都道府県医師会・社会保険担当理事連絡協議会のテレビ中継を地域医師会担当理事に聴講してもらった」こと。また、「厚生労働省における説明会の動画DVD、スライド資料、冊子等を郡医師会経由で医師会員宛に配布する」形で行われた。

医療現場の意見として多かったのは、「医療専門職等の研修等への参加を算定要件としている診療報酬項目が、(新型コロナの影響により)研修会の延期や、中止等で算定が不可能になった」こと。さらに、「当該研修会や診療報酬説明会等の今後の実施・開催について、地方厚生局から十分な説明や情報提供のなかったことに不満を持つ医療機関が少なくない」ことも明らかになった。

全国に8局しかなく、本省と比較すると極めて少ないマンパワーで煩雑な業務を担ってきた地方厚生局職員が、3月下旬から5月までの間、各地域で新型コロナへの対応や問い合わせに忙殺され、令和2年度診療報酬改定への対応に遅れを取ったことで、現場職員の責任を問うのは酷だろう。

医療現場の声をいくつかを紹介すると、「医師事務研修の開催予定が不透明な状況で、人員の採用が進んでも届出が出来ない」、「算定には支障はないが、患者サポート体制充実加算の要件の一つである“医療コンフリクトマネジメント研修”が中止となり、窓口に配置しようと考えていた職員が配置出来なくなった」、「介護支援等連携指導料等、院外の専門職種の来院が必要な項目の要件が満たせなくなる」、「今年度から始まった婦人科特定疾患管理料について算定要件で9月30日までに適切な講習を6時間以上受講しなければならないとあったが、その講習についての情報が全く得られない。厚生局から受講期限の延長等を示して頂ければ助かる」等、具体的な診療報酬項目の算定に言及する声も少なくなかった。

実際に全国で感染の蔓延がピークとなった4月から5月にかけては、「所管する厚生局に問い合わせのFAXを送っても回答が遅い」、「対面診療なしに投薬のみを希望する患者が急増しており、対処に困惑して厚生労働省に電話しても繋がらない」との声も少なくなかった。

これと同様の事態はPCR検査数が増えず、目詰まりが発生した日本全国の保健所でも発生していた。相談機能を担う保健所の業務過多や検査する地方衛生研究所及び、検体を採取する医療機関のスタッフ不足等がその理由として指摘され、保健所に電話しても、なかなか繋がらない等の事態も報道されていた。

一方で、国の行財政改革の影響を受け、2020年までの過去30年間で保健所の設置数は半減し、職員数も激減。地方衛生研究所の予算も削減されてきたこともその背景にある。例えば、1989年には全国で848存在した保健所の設置数は、2020年には469まで削減。1995年には約3万4千人だった保健所の職員数も、2017年には約2万8千人まで減少するに至っている(いずれも厚生労働省のデータ)。現在の事態に対し、新型インフルエンザが流行した約10年前の教訓が生かされず、体制を整備しないまま放置してきた歴代政府の責任を問う声も少なくないのは事実だ。

地方厚生局についても遡ると、2001年の中央省庁再編で新たに設置されたもので、「国の組織の減量効率化」を基本方針にブロック機関として設置されたもの。本省が行っていた指導監査や衛生・福祉分野の許認可事業の一部が厚生局に移管され、その後、2004年の社会保険庁の廃止に伴い社会保険庁の担っていた行政事務の一部が移管される等、全国8カ所しかない(うち1つは支局)厚生局の業務負担が増してきたのも事実。

保健所の統廃合や削減に比べると国民に与える影響は少ないものの行政サービス等の遅れについては、似たような構図があることは明らかであり、新型コロナの蔓延という想定外の出来事により、それが露呈したとも言えるだろう。

前出の医療機関側の切実な声は、4月30日段階の情報であり、当時よりも大都市を除き、新型コロナ感染が終息しつつある現在は、地方厚生局の対応もかなり改善していると考えられる。

(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)