5つの分野横断的テーマ

「事業継続計画(BCP)」策定推進と「介護の質」のアウトカム評価

厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(以下、同分科会に略)では4・5月は新型コロナの影響で会議が開催されなかったが、6月末からWeb会議とライブ配信による会議を実施。2021年4月に予定される介護報酬改定の議論が既にスタートしている。9月4日からは既に第2ラウンドの議論に移行。そこでの議論の内容を検証しながら出来得る範囲内で、2021年度の介護報酬改定の内容を考察してみたい。

9月4日に示された分野横断的テーマとして、今般の新型コロナウイルス感染症や、昨今の災害の発生・対応の状況、これまでの同分科会における議論を踏まえて、(1)感染症や災害への対応力強化(2)地域包括ケアシステムの推進(3)自立支援・重症化防止の推進(4)介護人材の確保・介護現場の革新(5)制度の安定性・持続可能性の確保―の5つが示された(図表1・2)。

(2)~(5)までは従来から議論されてきた内容だが、(1)が新たに追加され、今後の同分科会で重点的に審議される構えだ。(1)については「業務継続計画(BCP)の策定」を進めていくことが示され、(2)は「医療・介護の連携と看取りへの対応」に言及されているが、資料を細かく読むと「連携」よりも介護保険・各サービスにおいて、介護保険利用者への「医療ニーズや中重症者への対応」強化や、「認知症への対応力」向上への取り組みに力点が置かれているように感じる。介護サービス事業者自らが、利用者の求める医療ニーズや認知症ケアへ対応可能な一定の機能を備えているところは報酬評価をするとも受け取れる内容だ。

介護サービス各事業所の「認知症専門ケア加算」、「若年性認知症利用者・入所者・入居者・患者受け入れ加算」、「認知症行動・心理症状緊急対応加算」等、認知症にかかわる加算の算定状況は現状極めて少ないものの(図表3)次回改定では報酬アップや要件緩和等で、算定拡大を促す可能性が高い。(3)に関しては「介護の質の評価と科学的介護の推進」の観点から、「介護の改善を評価する指標が介護現場で導入される」のかが重要なトピックである。

現在、「VISIT」や「CHASE」といった種類のデータ収集の仕組みやデータベースが採用される予定だが、サービスの質や効果の測定には有効なもののデータ提出に対し現場のケアマネジャー等の作業負担が、相当増えることが予想される。VISITについては2018年介護報酬改定で初めて、通所リハを対象にした「リハビリテーションマネジメント加算」の算定要件に織りこまれたのは、記憶に新しい。

ただでさえ、ハードワークであるにもかかわらず給与水準が低いとされる介護の仕事は、常に慢性的な人手不足状況にある。そんな労働環境を踏まえて、前述のVISITやCHASEが一部の介護報酬算定の基準に採用されるにせよ、次回改定では拙速に詳細な要件が設定されることは考え難く「運用している」ことのみが求められそうだ。「介護の質を評価するに当たり、全体をストラクチャー、プロセス評価からアウトカム評価にシフトする」と言うのは簡単だが、介護現場で使える制度設計は難しい。この他、(4)(5)の内容に関しては、現行の議論から類推し実現しそうな改正ポイントをあげてみる。

リハビリ3職種の配置に新機軸?「感染症対策加算」新設に現実味

8月27日に開催された同分科会の資料では、介護老人保健施設(介護老健に略)で「医師がPT、OT、STに出すリハビリテーション指示内容」のデータが示されている。医師からの「機能訓練中の留意事項」の詳細が含まれる指示内容がなされていた場合は、退所時にかけてのADL向上効果の見られることが、エビデンスでも明らかになっている。ADLが向上すれば在所日数の短縮に繋がることから、「医師が訓練中から関与し、留意事項等を記載した指示文書を作成しリハビリ職に申し送り」した場合に何らかの報酬評価が新設されることは予想される。加えて「PT、OT、STのリハビリ3職種を配置」している介護老健には、「リハビリテーション重点配置加算」(仮称)のような加算が付く可能性は考えられないだろうか?とは言え、介護老健にはPT、STは大抵の場合、配置されているので、STの参画やPT・OT・STのマンパワーの数が評価の基準になるのかもしれない。

この予想される2つの新機軸は前述した介護サービスの「医療ニーズへの対応」強化や、「自立支援・重症化」防止という分野横断的なテーマに該当するものだ。この他、前述・(1)に関し同分科会では、介護老健に限らず介護保険施設全般に対し新型コロナ感染症防止に加えて、地震や台風等の自然災害対策や、施設での安全・衛生管理体制の強化、介護事故防止等のリスクマネジメント対応についての幅広いテーマにまたがる議論が行われてきた。

おそらく次回改定では、「BCPの体制整備と策定」や「ICTを活用した非対面業務の拡大、研修や会議のオンライン化の更なる推進」に向けた新規軸導入があるだろう。介護保険施設・事業所の「感染症または食中毒の発生、まん延防止」のために(1)委員会の開催(概ね3か月に1回)とその結果の周知(2)指針の準備(3)研修の定期的な実施(4)「感染症及び食中毒の発生が疑われる際の対処等に関する手順」の整備が同分科会でも示されているが、この(1)~(4)を丸ごと算定要件とする「感染症対策加算」(仮称)のような加算が、介護報酬で新設される可能性は無視できない。その場合、医療機関対象の診療報酬「感染対策防止加算」等とは異なり、要件には専門的な教育を受けたICD(感染制御医)やICN(感染制御ナース)等を中心とする本格的なICT(感染制御チーム)設置は求められず、介護保険施設の場合、努力目標として前出(1)~(4)レベルの体制整備が求められる程度に留まるのではないかと考える。

(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)