Q.「IR推進法」の施行によりマーケティング的にギャンブル依存症患者の需要は増えるのか?

2016年から「IR推進法」が施行されました。それを受けて、私の地元である大阪府・市では「大阪IR基本構想」を策定し、IRの誘致により経済活性化を図ろうとしています。 一方、厚生労働省は「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」に基づき、「ギャンブル等依存症の標準的な治療プログラムの確立に向けたエビデンスの構築等、全国的な普及を目指す」としています。
私自身も開業する前は、行政の精神保健の仕事に係わり、様々なアディクションの患者さんの治療に携った経験のあることから、これまでよりも、ギャンブル依存症等のアディクション(嗜癖・依存症)治療に力を注ぎたいと思っています。 今後、更に将来に向けて、マーケティング視点からアディクションの患者の需要は増えるのでしょうか?また、精神科医としてアディクション治療に取り組んでいくには、どのような診療体制の整備が求められますか?
当クリニックは、医師は私一人の体制で、非常勤の看護師だけが在籍する小規模診療所です。医師の増員は現状では、考えていません。

(大阪・心療内科クリニック・院長・54歳)

A .大阪の精神科系医療機関は、マーケティング的にもアディクション患者のニーズに応える医療体制を整備することは、社会的にも重要と思われます。

まず最初のご質問ですが、2014年から2016年までの全国のデータでは、アルコール依存症患者数(外来患者数)は、9万2,054人(2014年)→9万4,217人(2015年)→9万5,579人(2016年)。ギャンブル等依存症は2,019人(2014年)→2,652人(2015年)→2,929人(2016年)と確実に増加しています。
薬物依存症については、6,636人(2014年)→6,321人(2015年)→6,458人(2016年)と増加傾向にあるとは言えませんが、継続的に6,500人前後で推移しています。特にギャンブル依存症については、数が多くはないものの顕著な増え方です。
また、厚生労働省は過去1年間の「ギャンブル等依存が疑われる者の推計値」を約70万人、生涯経験を約320万人。アルコール依存症の推計値は約57万人、生涯経験を約107万と見込んでいるのを見ると、医療機関での治療やカウンセリングを受けていない潜在患者が、まだ数多く存在していることが分かります。 パチンコ業界等と組んで、IRを核とした国際観光拠点の樹立を目指す大阪府・市では、ギャンブル依存症やアルコール依存症等の患者は外国人も含め、今後、着実に増えると予想されます。

大阪の精神科系医療機関は、マーケティング的にもアディクション患者のニーズに応える医療体制を整備することは、社会的にも重要と思われます。 さて、貴クリニックでアディクション治療に力を注いでいくには、従来以上にカウンセリング機能を充実させることが大事です。ご承知のように、長期でカウンセリングを継続する必要がある方も多いと想定されますので、臨床心理士や公認心理師等の心理職を採用して、先生は心理職によるカウンセリングと連携した診療活動を行っていくことが求められます。

最後に付け加えると、IR推進局を設置し、カジノによる経済振興を目指す大阪府・市が本腰を入れて、実効性のあるギャンブル依存症等対策を実施する姿勢を示さなければ、依存症患者の大量生産を後押しすることにもなりかねません。ギャンブル依存症等の急増には、当然、行政側の責任も問われているのです。  

(2019年10度編集)

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