病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(3)

※本記事は、下記記事の続きです。ぜひ併せてお読みください。
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(1)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(2)


 緊急事態宣言が解除されてから半年が経ち、いまだに感染者数は毎日報告されており収束が見えない状況が続いています。コロナ禍で、社会全体そして医療界に大きな影響をもたらしたのは感染リスクを恐れて受診を控える患者の受療行動の変化です。いま病院・クリニック経営の最も重要なファクターが「感染症対策」となっています。

 2020年4月に緊急事態宣言が発令され、その後5月末に解除されてから、はや半年が経とうとしています。いまだに毎日新型コロナウイルス感染症の感染者数が発表されており、街中ではマスクを着け、人との距離をとり、できるだけ混雑した場所にはいかないようにするという、感染症を意識した「新しい生活様式」に則った行動が続いています。

 そのようなコロナ禍において、病院・クリニック経営はますます複雑化しています。病院・クリニックはコロナの影響で、いくつかの運用変更を余儀なくされています。その最たるものは、「感染症対策」を軸とした変更です。

かつては患者を増やすことが最も重要だった

 かつて病院・クリニックは、多くの患者を集めることが最も重要であり、「3密」などはあまり意識しなくてもよかったのです。当然、患者が多ければ待ち時間につながりますので、その対策は行っていました。病院・クリニックで「診療予約システム」の導入が増えてきていたのがその一つでしょう。しかしながら、それはあくまで「密」の回避のためではなく、待ち時間に対するクレーム対策であり、患者満足を損なわないための施策でした。患者が多いのだから混んでいてもやむを得ないという医療機関側、患者側の意識が多かれ少なかれあったと感じます。

病院・クリニックの待合室は感染リスクが高い場所

 それが、コロナ禍では人が多く集まる場所を避ける行動が推奨されています。いまだに大型のイベントに踏み切る状況にはなく、飲食店でもできるだけ少人数で利用することが求められています。

 医療界においては、「密」が起きやすい場所として、病院・クリニックの待合室がイメージされます。待合室は感染リスクが高いと、患者に敬遠される時代となったのです。結果として、感染リスクを避ける患者の受療行動は、「受診控え」として表出化され、大幅な患者減少につながっています。5月末の緊急事態宣言解除から約半年が経った現在でも、いまだに患者数がコロナ前の状況に戻らず、厳しい経営を余儀なくされている病院・クリニックも多く存在します。

受診控え、健診控えの問題

 患者の受診控えは重症化を招くと警鐘が鳴らされています。実際、コロナ禍で治療を中止してしまったり、受診頻度が減っていたり、予定していた手術や検査が延期になったりと大きな影響が出ています。これらすべてが患者にとって重症化につながる可能性があるのです。

 また、コロナ禍において健康診断が大幅に減っていることも、病気の早期発見・早期治療を遅らせる影響が出ています。

 2020年9月15日に一般社団法人日本総合健診医学会と公益社団法人全国労働衛生団体連合会が会員機関へ実施したアンケート調査(新型コロナ感染拡大による健診受診者の動向と健診機関への影響の実態調査)の結果を公表しました。
調査結果のポイントは以下の通りです。

  • 2020年1月から9月期の健康診断受診者数は約1400万人で、前年同期の約2100万人と比較して約700万人減少した。
  • 緊急事態宣言期間中の健康診断中止等の影響を受け、4月、5月の受診者は対前年同期比 8割減少した。
  • 緊急事態宣言解除後の健康診断再開により受診者が戻りつつあるも、特定健診、人間ドック健診では受診者が前年同月比1~2割減となっており、受診抑制が働いている可能性がある。
  • 緊急事態宣言等により、健康診断を中止、延期した受診者の年度内実施の可能性については3分の2がほぼ可能としているものの、3分の1は7~8割程度としており、今後、この傾向が続けば今年度末までに約1割の未受診者が発生する可能性がある。

出典:新型コロナ感染拡大による健診受診者の動向と健診機関への影響の実態調査(日本総合健診医学会)https://jhep.jp/jhep/sisetu/pdf/coronavirus_18.pdf


 同学会を始めとする健診8団体は5月に「健康診断実施時における新型コロナ感染症対策」を取りまとめ、会員医療機関に感染症対策の徹底を求めています。健診を実施する医療機関が十分な感染症対策を実施することにより、患者が安心安全に健診を受診できる環境整備を求めているのです。

感染対策は費用が掛かり、生産性が低下する

 健診8団体が取りまとめた「健康診断実施時における新型コロナ感染症対策」では、新型コロナウイルス感染症対策として「3密」を避けるために、受診環境の確保が必要としています。具体的な健診の受診環境としては、以下の内容を求めています。

  • 健診会場でのマスク着用
  • 健診受診者が発熱している場合などのの後日受診
  • 受診者間、受診者と職員の距離の確保
  • 健診に要する時間の短縮
  • 室内の換気(ただし、機械式換気装置が稼働し、十分な換気量が確保されている場合は除きます)
  • 「密集」を避けるため、1日の予約者数、予約時間等を調整。
  • 職員のアルコ-ル消毒液等による手指消毒の励行
  • ロッカールームやトイレ、ドアノブ、階段手摺、エレベーターの呼びボタン、エレベーター内部のボタン等受診者が触れる箇所の定期的な消毒

 出典:健康診断実施時における新型コロナウイルス感染症対策について(健診8団体)
    https://jhep.jp/jhep/sisetu/pdf/coronavirus_15.pdf

 

 健診を行う医療機関は、マスクや消毒などの備品、空気清浄機等の設置、フィジカルディスタンスの確保のために1日の予約の制限などに取り組む必要があるのです。これらには当然費用が掛かる上、生産性も落とさざるを得ません。これらの感染症対策を徹底しながら、受診を受け入れることは、これまで通りの運営方法では難しい状況が生まれているといえるでしょう。

※続きの記事「病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(4)」はこちらからお読みいただけます。ぜひ続けてお読みください。

病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(4)

執筆者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

2001年一橋大学大学院MBAコース修了。同年医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社。02年医療IT総合展示場「メディプラザ」設立(~2016閉館)。16年コンサルタントとして独立し「MICTコンサルティング」を設立、現代表。19年一般社団法人リンクア(医療・介護教育)を設立、現理事。
過去3000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行っている。

 

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