病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(5)

※本記事は、下記記事の続きです。ぜひ併せてお読みください。
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(1)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(2)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(3)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(4)


 コロナ禍では、「患者を増やす」と考えるのではなく、患者との関係を強固にする「エンゲージメントを高める」考え方が重要です。かかりつけ医機能の一つである、健診・相談業務を取り上げ、健診を楽にするシステム構築の仕方を解説します。

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エンゲージメントという考え方

 COVID-19の感染も終息が見えない中、感染対策をしながら、患者を増やすのは難しい状況となっています。ウィズコロナの時代は、「患者を増やす」と考えるのではなく、「患者との関係を強固にする」という考え方が重要と考えます。
近年、顧客と企業の関係づくりとして、「エンゲージメント」という言葉が流行っています。エンゲージメントとは「愛着・思い入れ」など、もともとは会社と従業員との「絆」を意味する言葉でした。その関係づくりを、クリニックと患者の関係に置き換えてはいかがでしょうか。

かかりつけ医制度

 政府は、患者に最も近い医療機関として、クリニック(小規模病院)や薬局を位置づけ、かかりつけ医、かかりつけ薬剤師という考え方を定着させようとしています。その政策の背景として、超高齢社会を迎えている我が国において、医療費の急激な増加は深刻な問題となっています。このまま医療費の増大が続くと、医療保険制度が維持できないと推測されており、その医療費抑制の一つの施策として、地域包括ケアシステムの柱となる「かかりつけ医制度」を進めようとしているのです。

 「かかりつけ医制度」とは、「健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のこと」と日本医師会は定義しています。また、かかりつけ医の機能として、日本医師会は以下のように解説しています。

  • 日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、地域の医師、医療機関等と協力して解決策を提供する
  • 自己の診療時間外も患者にとって最善の医療が継続されるよう、地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、お互いに協力して休日や夜間も患者に対応できる体制を構築する。
  • 日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。
  • 患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供を行う。

出典 : かかりつけ医を持ちましょう(日本医師会)https://www.med.or.jp/people/kakari/

 以上を要約すると、かかりつけ医の機能は、①患者の状態把握、②適切な診療・保健指導、③専門医療機関への紹介、④地域連携・情報共有、⑤地域住民の健診・相談、⑥在宅医療、⑦わかりやすい情報提供―となります。このかかりつけ医の機能を丁寧に実行することこそ、クリニックと患者のエンゲージメント強化につながると考えるのです。

 このように、かかりつけ医は多くの機能を求められています。何から手を付けていけばと考えてしまうのではないでしょうか。今回は⑤の健診・相談について解説します。

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健診から慢性疾患フォローの流れ

 COVID-19の影響で健診が延期されており、健診の大幅な減少が報道されていることは前回、説明しました。そのような状況から、安心して健診を受けられる環境づくりが大切であると考えます。

 この健診業務に取り組むことは、一般のクリニックでは、当然負担が増大し、通常の外来診療の合間に行うのはなかなか難しいと考えられてきました。しかしながら、現在のような、患者が減少傾向にある局面こそ、健診を始めるには絶好の機会と考えます。

 健診に取り組むことで、生活習慣病(糖尿病、高血圧症、高コレステロール血症)などの慢性疾患を有する患者の早期発見につながります。慢性疾患患者は定期的な受診を必要としますので、ひとたび患者と信頼関係が構築できれば、長期の関係を構築することができるのです。その入り口となるのが、この健診業務なのです。また、健診は毎年行われてこそ意味があるものです。1年に1回、必ず健診を受診する関係づくりが重要となるのです。

健診業務を「楽」にするためには

 いざ、健診業務に取り組む際に、障壁となるのは、「通常の診療が中断する」「検査結果の管理が大変」「報告書の作成が面倒」という3つの問題が考えられます。一方、患者にとっては、気軽に健診が受けられ、健診結果で問題があれば、フォロー(治療)してくれる体制を期待しています。クリニック側の負担を解消し、患者のベネフィットを高めることを考える必要があるのです。

 病院・クリニッククリニック・病院の負担を軽減するためには、通常の診療が中断しないよう、新たに健診枠の設定を行う必要があります。この枠を管理するためには、「予約システム」の導入が有効でしょう。また、検査結果の管理については、電子カルテと連携できる「検査結果管理システム」の導入が必要となります。さらに、報告書の作成については、「健診システム」を導入することで手間なくきれいな報告書の作成ができるようになります。

 これらの取り組みは、患者にとってのベネフィット向上にもつながります。システムを導入すると費用を心配されると思われますが、医療においてもクラウド技術が普及しつつあり、安価なサブスクリプションモデル(定額制)のものが出てきていますので、初期投資を抑えた導入が可能になっています。

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※続きの記事、最終回「病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(6)」はこちらからお読みいただけます。ぜひ続けてお読みください。

病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(6)

執筆者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

2001年一橋大学大学院MBAコース修了。同年医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社。02年医療IT総合展示場「メディプラザ」設立(~2016閉館)。16年コンサルタントとして独立し「MICTコンサルティング」を設立、現代表。19年一般社団法人リンクア(医療・介護教育)を設立、現理事。
過去3000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行っている。

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