病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(6)

※本記事は、下記記事の続きです。ぜひ併せてお読みください。
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(1)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(2)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(3)
病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(4)

病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略(5)

 新型コロナの感染拡大は病院・クリニック経営に大きな影響をもたらしています。5月末に緊急事態宣言が全国で解除され、いったんは収束するかに見えた感染拡大も、7月に入り第3波、11月に入り第3波と全国で猛威を振るっています。このようなWithコロナの時代に、クリニック・病院はどのように考え、どのように行動に移せば良いのでしょうか。今回はまとめとして、今後のクリニック・病院のトータル戦略を考えます。

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 わが国ではワクチンの接種を、2021年2月から開始するための準備が始まっています。しかし、ワクチンができても実際に終息に向かうかどうかは疑わしいところです。新型コロナウイルスが変異し、新たなウイルスが出現する可能性もあるのです。いまだ終わりの見えないコロナ禍の中で新型コロナウイルスと共存していかなければならない時代が到来しています。

 「Withコロナ」では、これまでの普通が普通でなく、「ニューノーマル」という言葉に表されているように、社会が新しい機軸を探しながら進んでいく状況が生まれています。このような困難な状況の中で、クリニック・病院がいますぐできることは何でしょうか。

1)感染防止対策を周知する

 コロナ禍でクリニック・病院に来院する患者数が減少する中、いま一度患者に来てもらうためには、「安心・安全な診療体制」を構築する必要があります。多くのクリニック・病院では「感染防止策」を行っています。しかしながら、このようなクリニック・病院の感染防止策は、患者に正しい情報として届かなければ意味がありません。例えば、患者から「通院して危険はないか」「オンライン診療に対応しているか」「特定健診は受け入れてくれるか」といった電話が多くかかっては、受付はその対応に追われてしまいます。

 クリニック・病院が保有する情報と患者が知り得る情報の差、そして感染の恐怖が「とりあえず電話」というかたちで表出しているのでしょう。この電話を減らすためにも、ホームページやSNS(LINE、Twitterなど)の活用は有効であると考えます。

2)待合室の混雑を緩和し密を回避する

 クリニック・病院の待合室はどうしても「密」になりやすいので、コロナ禍ではその対策が重要になります。混雑した待合室は密になるだけでなく、患者が来院しにくい環境を作り出しており、せっかく来院しても密なので次回にするといった、機会損失を生み出しています。そこで、予約システムの導入に注目が集まっています。

 予約システムを導入することで、患者は来院前に混雑状況を確認することができます。また、自分の時間や順番が近づいてから来院するので、待合室での滞在時間の短縮、密の回避につながります。予約システムは、時間による患者同士の距離(タイムディスタンス)を確保できるのです。

3)コロナ疑い患者と通常の患者をトリアージする

 冬期になり、インフルエンザと新型コロナウイルスが同時に流行する可能性があり、発熱等を訴える患者が増えてくることが予想されています。そんな際に、発熱患者と通常の患者を分けるために有効なのが、「Web問診」の導入です。Web問診とは、従来の紙の問診表をデジタル化し、患者自らのスマホなどから入力を可能にしたシステムです。入力場所は、自宅などの外部からでも、待合室でも可能です。自宅等で問診を入力してから、来院する流れであれば、事前に発熱があるかないかがわかりますので、発熱患者をトリアージすることが可能なのです。

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4)オンライン診療で受診チャネルを拡大する

 4月より初診からオンライン診療を行えるようになりました。現在はコロナ禍だけの限定的な規制緩和ですが、将来的には恒常的に規制を緩和できるよう議論が始まっています。現在の第3波の状況では、再び来院を控えたいと考える患者が増えてくるかもしれません。そのような時に外来診療を補完するために、オンライン診療を活用することで、患者の継続的な受診が可能になります。

 オンライン診療と先に挙げた予約システム、Web問診と組み合わせることで、感染拡大時の受診機会の確保につながります。オンライン診療があることで、患者は安心して受診継続が可能となるのです。

5)クラウド化でコストを下げる

 医療の世界でも、クラウドやサブスクリプションという考え方が浸透しつつあります。コロナ禍で患者が減少し、医業収益が低下しているいまこそ、システム投資の考え方も変更する必要が出ているのかもしれません。現在は、電子カルテをはじめ、予約システム、Web問診、オンライン診療、健診システムなど様々なものがクラウド化され、低価格で導入可能な状況が整いつつあります。全体コストを見直すためにも、システムのクラウド化は重要な戦略であると言えます。

6)サービス開発に取り組む

 受診控えが再び始まろうとしている中、季節系疾患に頼るクリニック・病院経営の在り方の見直しが必要になっています。継続して受診を必要とする、慢性疾患患者を獲得するための活動が重要になっているのです。そのヒントは、健診など「予防」への取り組みにあります。健診業務に取り組むことは、従来一般のクリニックでは、当然負担が増大し、通常の外来診療の合間に行うのはなかなか難しいと考えられてきました。しかしながら、現在のような、患者が減少傾向にある局面こそ、健診など新サービスを始めるには絶好の機会と考えます。また、クラウド型のサブスクリプションの健診システムなどを活用することで、費用を抑えて始めることが可能です。

 健診への取り組みは、生活習慣病などの慢性疾患を有する患者の早期発見につながります。このような患者は定期的な受診を必要としますので、ひとたび患者と信頼関係が築ければ、長期の関係を構築することができるのです。また、健診は毎年行われてこそ意味があるものです。1年に1回、必ず健診を受診する関係づくりが重要となるのです。

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エンゲージメントをどう作り出すか

 いますぐ始められる6つの対策をご紹介しました。その根底にあるのはエンゲージメントという考え方です。エンゲージメントとは「愛着・思い入れ」という言葉です。患者とクリニック・病院との関係づくりのあり方をいま一度考える時期が来ているのではないでしょうか。従来のように「患者を増やす」と考えるのではなく、「患者との関係を強固にする」という考え方が重要だと考えます。

 政府は、患者に最も近い医療機関として、クリニック(小規模病院)を位置づけ、かかりつけ医という考え方を定着させようとしています。この「かかりつけ医制度」とは、「健康に関することを何でも相談でき、必要な時は専門の医療機関を紹介してくれる身近にいて頼りになる医師のこと」と日本医師会は定義しています。このかかりつけ医の機能を丁寧に実行することこそ、クリニックと患者のエンゲージメント強化につながると考えるのです。

連載「病院・クリニックのためのコロナ禍の経営/クラウド戦略」は今回で終了です。お読みいただきありがとうございました。引き続き、「CARNAS」のウェブサイト、コラムをお読みいただければ幸いです。
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執筆者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

2001年一橋大学大学院MBAコース修了。同年医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社。02年医療IT総合展示場「メディプラザ」設立(~2016閉館)。16年コンサルタントとして独立し「MICTコンサルティング」を設立、現代表。19年一般社団法人リンクア(医療・介護教育)を設立、現理事。
過去3000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行っている。

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