医療IT最前線 第46回 電子カルテ導入、成功のポイント

電子カルテ導入に費用対効果が見いだせない

現在、診療所の電子カルテの普及率は約4割。

製品が誕生してから17年が経過し、新規開業では当たり前に導入するシステムとなりましたが、既存の診療所ではなかなか普及が進まない要因は、「電子カルテの費用対効果」が見いだせないからではないでしょうか。 現在のところ、診療所が電子カルテを導入しても診療報酬の恩恵はありません。そのため、電子カルテの購入をためらう医師からは「医療機器には点数は付くが、電子カルテには点数が付かないから購入しない」という声をよく耳にします。

多くの場合、電子カルテはあくまで設備投資という位置付けにすぎないようです。設備投資であるからには、電子カルテの導入で何らかの効率化が図れなければ、購入を見合わせるのは当然だといえます。また、電子カルテを導入すると業務が増えると考える医師も多く、その考え方から電子カルテの導入を見合わせる場合もあります。こうした理由が、既存診療所での電子カルテの普及を阻害していると考えられます。

レセコンの導入効果、電子カルテは?

かつてIT化の代表格であったレセプトコンピュータ(以下、レセコン)は、レセプトを手書きするという事務スタッフの負担を、IT化によって大幅に軽減できます。その結果、多くの医療機関が手書きよりもはるかに早く正確なレセプトが作れるレセコンを導入しました。既に診療所におけるレセコンの普及率は100%近くです。手書きのレセプトと比べて作業が効率化する、レセコンの効果は実に明快だったといえます。

では、電子カルテはどうでしょうか。

「紙カルテをなくし、ペーパーレスを実現する」といっても、結局は完全に紙がなくなるわけではありません。また、「電子カルテを導入すると、事務スタッフのレセプト入力操作が不要になる」という効果はあっても、実際にはレセプト入力作業が事務側から医師側に負担替えになったと捉えられることもあります。

電子カルテの導入効果は決め手に欠ける

もし、「電子カルテを導入すると、待ち時間が短縮される」となればどうでしょうか。会計の待ち時間は短縮するものの、診察待ちはなくなりません。さらに「カルテ出し、カルテ搬送の手間が省ける」という効果も、過去カルテが紙で存在している間は完全にはなくなりません。 通常、電子カルテの導入で挙げられる上記のような導入効果が、実際には医師の導入意欲を満たすためには、いずれも決め手に欠けるようにも思えます。

電子カルテを使いこなせていない現実

また、実際に電子カルテを導入しても「レセコンやオーダーリング用途でしか使わない」という話を聞きます。実際の現場を訪問すると、「当初、期待していたほど電子カルテの機能を十分に使いこなせていない」という医師が多いように思えます。

なぜ、電子カルテを使いこなせないのでしょうか。その理由は患者数の増加によってカルテ入力が負担になるケースや、導入初期の操作研修が不十分であったため、何となく使い続けているケースがあると考えられます。

導入効果の明確化と診療科毎の特性への対応がポイント

電子カルテはあくまでデジタル化による効率化を目的とした「ツール」にすぎません。

使いこなすポイントは、初期設定や日々のメンテナンスにあります。初期の電子カルテには機能も未熟であり、現在のものと比べてもかなり見劣りする製品もあります。適切にバージョンアップが行われていなければ、導入メリットを享受できないこともあるでしょう。 また、電子カルテ運用に診療科ごとの違いがあることに気付いていない点も、使いこなせていない理由の1つだといえます。診療科が違えば、使用する医療機器や診療の診察フローも異なります。

本来の診察フローに合致する電子カルテを導入すれば解決できますが、これまでは電子カルテに合わせて診察フローを変更するケースが多かったように感じます。「電子カルテは診療所の基幹システムである」といえるため、この部分をおろそかにすれば当然使いにくくなるでしょう。 電子カルテ導入を成功させるためには「導入効果の明確化」と「診療科毎の特性に合わせた運用スタイル構築」が必要なのです。

この点をあらかじめ考慮しないと「費用対効果が見いだせない」「導入のメリットが感じられない」となってしまうことでしょう。この二つを導入前に設定・理解し、導入後しばらくしてから評価を行うということが必要なのです。


(2018年06月15日)

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