医療IT最前線 第59回 電子カルテのデータを経営に活かす

電子カルテが生まれて約20年が経ち、診療所の普及率も4割に達しようとしています。新規に開業する医師は必ず電子カルテを導入し、既存に開業している先生でも、電子カルテにいずれは導入する必要があると考える時代になりました。

電子カルテは何のために導入するのか

そんな時に改めて問いたいのが、「電子カルテは何のために導入するのでしょうか」。

この質問にはっきりと答えられる医師は少ない気がします。他のシステムであれば、簡単に出てくるのが、なぜか電子カルテは解答が出てきません。 私なら「電子カルテは診療データを蓄積し、経営に活かすため」と回答します。そう考えると、電子カルテに求められる機能は、(1)診療内容を適切に請求につなげる(2)患者情報を適切に管理し活用する(3)経営に必要なデータを見える化する、というものではないでしょうか。

診療を適切に請求につなげる

「紙カルテとレセコン」は、医師がカルテに記載した内容を、専門の医療事務が診療報酬点数表に基づき、レセコンに入力し、適切なレセプト(診療報酬明細書)を作成してきました。したがって、診療報酬ロジックを理解した医療事務スタッフが重要な役割を担ってきました。

一方、電子カルテでは、医師自らが電子カルテに記事(診療内容)とコスト(診療報酬点数)を入力することで、自動的に適切なレセプトを作成することが第一の目的です。そのため、ベテランの事務スタッフがいなくても、適切なレセプトが作成できなければならないのですが、今はそこまで至っていません。あくまで請求の補助的なツールとして、レセプトチェック機能を搭載されているにとどまっています。

請求事務はコンピュータに完全に置き換えられない

この部分は、完全にコンピュータ任せにすると、厚労省に何と言われるかを恐れるシステムメーカー側が遠慮しているのか、また、地方ルールがいまだ存在するため開発が難しいのか、そもそも完全に請求を自動化すること自体が難しいのかは、意見が分かれるところです。

最近の傾向では、せっかくの人的資産を有効活用するために、受付の医療事務を診察室にコンバートして、クラークとして医師の隣に座ることで、診療を適切に請求につなげる仕組みを構築することが出てきています。

患者情報の管理・活用

電子カルテには、氏名、年齢、住所などの個人情報と、過去の診療歴や病歴が蓄積されます。診療歴の中には患者の主訴から始まり、所見や治療内容(薬、検査、処置、リハビリなど)、病名、指導内容、予約情報など多岐に渡る情報があります。 これらのデータは、電子カルテに搭載されている検索機能や、外付けのPMS(Practice Management System:医院経営システム)などを利用することで活用することが可能です。

患者さんの来院動向(時間、曜日、場所)等の分析から、季節ごとの疾患傾向、患者の既往歴などを分析することで、CRM(Customer Relationship Management)として電子カルテを活用できるのです。

経営データの見える化

診療所を運営していく上で、「患者数」や「患者一人当たり単価」「診療行為別点数」などは、時系列に蓄積し、リアルタイムに分析できて初めて意味のある情報です。それが何か月も遅れて、分析しているようでは、問題点を的確に把握することは難しいでしょう。 立地さえよければ、患者さんが自然に集まり、なんとなく経営ができていた時代は、競合の診療所がまだ少なく、診療報酬改定率が右肩上がりの時代の話です。

バブル崩壊以降の長引くデフレ経済下にある我が国の診療所にとっては、はるか昔の話なのです。 現在は、診療所同士の競争も激化し、改定率も上がりませんので、診療所経営において、現状をリアルタイムに把握し、逐次対策を打つことは、診療所経営において大切な戦術となっています。先に挙げた、電子カルテとPMSを利用することで、リアルタイムで情報を得ることが可能です。

毎日スマートフォンに、その日の経営通信簿が送られてくるシステムも存在します。昨年の同時期に比べた変化を理解することで、日々の異変に気付くことが可能になるのです。  

(2019年1月15日)

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