医療IT最前線 第84回 キャッシュレス決済、診療所にも普及するか?

キャッシュレス・消費者還元事業

政府は2019年10月の消費税の8%から10%への引き上げに際して、クレジットカードなどのキャッシュレス決済を利用した消費者に対し、購入額の5%あるいは2%分をポイントやキャッシュバックで還元する「キャッシュレス・消費者還元事業」(ポイント還元事業)を始めました。

同事業の目的は、キャッシュレス対応による「生産性向上」や消費者の「利便性向上」で、消費税率引き上げ後の9カ月間(2019年10月~2020年6月)に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援するものです。ポイント還元となる対象は、クレジットカードやデビットカード、電子マネー、QRコード、モバイル決済を利用した消費者が対象となります。

経済産業省の調査によると、2019年5月中旬より加盟店の登録受付を開始し、8月21日時点での事務局への登録申請数は約43万件、事務局の審査を通過した加盟店数は約20万件となっています。

残念ながら、そもそも消費税のかからない保険医療機関、保険薬局、介護サービス事業者などはこの事業の対象から除外されています。これらの事業者へは診療報酬改定によって別途手当てが行われるためという考え方です。

世界で進むキャッシュレス

経済産業省がまとめた「キャッシュレスの現状と今後の取組」によると、世界各国のキャッシュレス決済比率は、キャッシュレス決済が進展している国では40%~60%台であるのに対し、日本は18.4%にとどまっているとしています。韓国では89.1%、中国でも60.0%と非常に進んでいます。この結果を受けて、政府は10年後までに約4割に引き上げることを目標にしています。

キャッシュレス決済のメリット

保険医療機関である診療所は、このポイント還元事業の対象外ではありますが、そもそもキャッシュレス決済にはどんなメリットがあるのでしょうか。

消費者(患者)にとっては、現金を持ち歩かなくてよく、突然の出費に銀行で現金を下ろす手間が不要であり、高額な検査などで手持ちがなくても支払うことが可能になります。診療前や診療中に「今日はどれくらいかかりますか」と恐る恐る聞くこともなくなるでしょう。

一方、事業者(保険医療機関)にとっては、患者が手持ちの現金がないことによる未収金のリスクを回避できるとともに、高額な検査、自費分野などの開拓にもつながると考えます。また、東京オリンピックに向けて増加が見込まれる、訪日外国人への対応としても有効でしょう。キャッシュレスに慣れている訪日外国人などにとっては魅力とともに未収も回避できます。

さらに、キャッシュレスは現金を触らなくて良いので、釣銭の渡し間違いのトラブルも回避できます。

なぜ、キャッシュレスが進まないのか

それでは、なぜわが国でキャッシュレスが進まないのでしょうか。わが国の治安の良さや偽札の少なさ等の社会情勢や、使い過ぎ、借金への不安感、店舗の端末負担コスト、ネットワーク接続料、加盟店手数料等のコスト構造などが挙げられます。

実際、診療所の院長などにキャッシュレス決済の導入についてお聞きすると、「約3%台の加盟店手数料がもう少し下がれば導入したい」と話されます。

この手数料については、少し誤解があるように感じます。確かに、売上の3%と考えると高額に感じますが、患者の自己負担分(3割)にかかるものですから、3割の3%と考えると、売上の0.9%であることが分かります。この手数料をどうとらえるかという問題になります。

今後は政府がキャッシュレスを後押しする流れの中で、それをやむを得ない流れと感じて導入する医療機関も増えていくのではないかと思います。

大西 大輔

(2020年1月17日)

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