新型コロナウイルス感染症災禍における医療保険制度の「特例的対応」について(1)
救命救急センター、ICU等への重症者受け入れの診療報酬を倍増
安倍首相は「緊急事態宣言」の対象を全都道府県に拡大することを表明し、翌4月17日に開催された記者会見で、都道府県医師会が主導する「検体の摂取に当たるPCR検査センターの設置」や、「初診オンライン診療の積極活用」等に加え、重症患者の治療に当たる医師や看護師の処遇改善に向けて、「診療報酬を倍増する」方針を打ち出した。前提なしに飛び出した最後の発言には唐突感があり、惑いを感じた医療関係者もおられたかもしれない。
この診療報酬「倍増」発言は、新型コロナウイルス感染症患者への治療行為に関連した診療報酬が全て2倍になるという意味ではない。2020年4月8日から17日までの間、中医協では3度に亘り、持ち回りの総会を実施。「新型コロナウイルス感染症(以下、同感染症)に伴う医療保険制度の対応」が議論された。
4月17日に行われた3回目の議論で、同感染症の中等症・重症患者の医療機関における受け入れに関し、「救命救急入院料1・2」や、「特定集中治療室管理料1・3」、「ハイケアユニット入院医療管理料 入院料1・2」を倍増させることを念頭においた発言だ。これらの重点評価は、重症の同感染症[ECMO(体外式心肺補助や人工呼吸器『持続陽圧呼吸法(CRAP)等を含む』による管理等、呼吸器を中心とした多臓器不全に対する管理を要する患者への診療]を拡充しようとするもの。この時限的措置は、救命救急センターやICU、CCU等の病床を有する病院に対し重症の同感染症患者の受け入れ拡大に繋がるが、一方で当該病院等における院内感染のリスク等も想定される。
同感染症患者への対応により、病院内でより多くの医療従事者を配置する必要にも迫られるが、一方で同感染症以外の救急医療が手薄になったり、縮小せざるを得ない状況もあり得るため、「倍相当」の報酬評価とはいえ、病院側には地域が必要とする役割を踏まえた冷静な判断が求められる。勿論、切迫した状況下での政治的判断による時限的な改正であり、各病院が最善と思われる選択をする他ない。(図表1)
「救命救急入院料1・2」、「特定集中治療室管理料1・3」のいずれにおいても現行の算定日数上限は「2週間以内」だが、同感染症患者に限っては、「急性血液浄化(腹膜透析を除く)を必要とする状態」、「急性呼吸窮迫症候群」または「心筋炎・心筋症」のいずれかに該当する患者は「21日」。「対外式心肺補助(ECMO)を必要とする状態」の患者に対しては「35日」と通常よりも延長する方針。
前述の記者会見で安倍総理は、これらの改正について「重症患者の治療を担う医師や看護師らの処遇改善に繋げる」ことを強調していたが、時限的措置である以上、これだけの説明では国民には分かり難い。より丁寧な説明が求められるだろう。(図表2)
一般医療機関の「外来」受け入れ 「院内トリアージ実施料」が算定可能に
4月8日の中医協総会では、一般医療機関でも同感染症患者を受け入れることを想定し、外来診療及び入院管理について、診療報酬の「特例的な対応」が示され、中医協でも了承された。(図表3)
前者の「外来における対応」としては、新型コロナウイルスへの感染が疑われる患者に限定し、受診時間に関係なく外来診療を行った場合、「院内トリアージ実施料」(300点/回)が算定可能となった。院内トリアージ実施料を算定する医療機関は算定に当たっての事前届出を求めず、手続きを簡素化した。同感染症を疑われる患者に早期介入し、院内感染を防止し医療崩壊を防ぐ狙いがある。
ただ、インフルエンザと異なり、原因が分からずワクチンも開発されていない同感染症患者を外来で受け入れることに対して、中小民間病院等の中には戸惑いのあるのも事実。ある地方の民間ケアミックス型病院(180床)院長は、「国公立病院が存在せず、医療資源の乏しい地域で、二次救急医療を担ってきた自負はある。しかし、県の担当者から同感染症を疑われる患者の受け入れを依頼された場合、患者や職員に感染した時のリスクを想定すると、慎重にならざるを得ない。万一、院内感染が起こると機能停止や風評被害等の二次災害により、病院の存続そのものが脅かされる」と当面は、受け入れはしない方針。
一般論として、設備・マンパワーを含め、感染防止体制の整備された急性期病院等を除くと、現状では中小規模の民間医療機関の多くは同実施料が算定可能になったとは言え、受け入れに積極的な施設は少ないようだ。
後者の「入院における対応」としては、「患者の重症化等を防ぐための管理及び医療従事者の感染リスクを伴う診療の評価」として「同感染症患者への入院医療」に加え、「必要な感染予防策を講じた上で、実施される診療」に対して、既存の診療報酬を重点評価。一つは、中等症以上の同感染症患者を念頭に置いた「救急医療管理加算1」で現行の950点(1日につき)の2倍相当の1,900点が算定可能に。更に人員配置に応じて追加的に「ニ類感染症患者入院診療加算」(250点)に相当する加算も算定可能になった。現行「救急医療管理加算1」は1週間しか算定できないが、特例的に14日間まで算定可能だ。(図表4)
救急医療管理加算1及び2は、2020年診療報酬改定で50点ずつ引き上げられたが、その分、いくつかの重症患者の状態等について診療明細書の摘要欄に記載することが求められ、看護師や医事課職員から多忙な中での事務作業の煩雑さが指摘されていた。非常事態でもあり、医療現場で事務作業を簡素化する措置が取られるのかどうかは分からないが、通知等で明らかになってくると思われる。
この他にも、診療報酬における「特例的な対応」がいくつか示されたが、それらの内容に加え、医療現場では「賛否両論」相半ばするオンライン診療に係る規制緩和(時限的措置)に関しては、中医協委員等の声も交えて、次回に紹介させていただく。
(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)
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新型コロナウイルス感染症災禍における医療保険制度の「特例的対応」について(2)
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