新型コロナウイルス感染症災禍における医療保険制度の「特例的対応」について(2)

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新型コロナウイルス感染症災禍における医療保険制度の「特例的対応」について(1)
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オンライン診療規制緩和の罠

「初診」オンライン診療解禁には現場の医師からも不安の声

厚生労働省は新型コロナ災禍において、電話やスマートフォン等による診療を初診も含めて全面解禁したが、実際にオンライン診療を積極的に実施している現場の医師からも同診療の受診のハードルを下げることに不安視する声が複数聞こえ始めた。

例えば、「患者と直接、接触しない診療は確実に医療の質が落ちる」との意見や、「慢性頭痛の患者等はオンラインだけで安易に診断・処方はできない。受診後、患者が脳梗塞等を発症した場合等、医療ミスを指摘され医療訴訟に発展するのが不安」、「時限的措置が解けてからも国が、“なし崩し”的に初診オンライン診療の容認が継続されないか心配」等の見方が、医療機関側に支配的だ。某循環器科専門医に尋ねると、皮肉をこめて「私は“初診”オンライン診療が出来る程の名医ではないので、絶対にやらない!」と断言していた。

そもそも、オンライン診療・服薬指導の推進は、国民側の要望や厚生労働省が進める医療政策というよりも、政府の規制改革推進会議や経済産業省が主導し進めてきた「経済政策」の側面が強い。新型コロナ感染が深刻化するよりも以前から、経済界、特にIT関連企業等からは規制緩和を要望する声が強まっていた。2018年度診療報酬改定でのオンライン診療解禁は、IT企業等にとって、ビジネスチャンス拡大に繋がる期待が大きかったのは間違いない。

ただ、オンライン診療を希望する患者が増えないのは、診療報酬の低さや規制の多いことだけが理由ではない。単に患者側のニーズがほとんどないからだ。


病気への不安を抱えた患者はテレビ画面だけで主治医と相対するよりも、「対面」診療で医師と直接、円滑にコミュニケーションを取る方が安心・安全なのは言うまでもない。必ずしも医療には明るくないIT専門家らがオンライン診療の長所ばかりを強調し、礼賛するのは、それが彼らのビジネスに繋がるからだ。遠隔診療や利便性等のメリットは否定しないが、一部の臨床医からは「不完全な医療」と見られている実態は指摘しておきたい。

オンラインが初診から容認されると、通常の外来窓口で患者本人の確認ができないことから、患者のなりすましや、虚偽申告による処方等が行われないかも不安だ。悪徳ビジネスが複数の患者と結託し、処方薬の横流しを企むような事態も起こりかねない。本人確認のために被保険者証を撮影した電子データの細かいやり取り等、患者側・医療機関側双方に煩雑な業務が発生する。それが理由で、慢性疾患を有する高齢患者等には受診抑制の意識が働くかもしれない。国はオンライン診療に対し「院内感染拡大の防波堤」として過剰に期待しているようだが、同時にその限界等についても国民に周知させる必要がある。

この分野を取材してきたITジャーナリストは、「オンライン診療を先駆的に行っている開業医等は、医療機関主導というよりも、オンライン診療をビジネスにしたいベンチャー企業等と提携して実施しているところが少なくない。オンラインに必要なハード・ソフト機器導入や、運用等については当該企業が全面的に支援しているケースもあると思われる。

しかし、営利を最大に追求したい企業側の意向に沿って、オンライン診療が運用されてはならない。導入する医療機関のガバナンス能力が問われる」と指摘する。

時限的にオンライン診療「初診料」(214点)を新たに設定

それでは、新型コロナ災禍におけるオンライン診療の医療保険制度上の「特例的な対応」の内容を見ていくことにしよう。4月8日の中医協での議論を経て、厚生労働省は4月10日、特例のオンライン診療の取り扱いと、診療報酬上の対応や通知等を公表した。

前述したように時限的措置を踏まえて今回、当該医療機関の受診がなくても「医師が電話等を用いた診療が可能と判断した」場合のオンライン診療の「初診料」(214点)が新たに設定。通常の288点よりも低い点数設定であるのに注意して欲しい。高度な救急医療を担う病院を対象にした「救命救急入院料」や「救急医療管理加算」等のように報酬点数が倍増されるわけではない。

また、診療報酬での電話再診料の要件も緩和するが、「現在、受診中ではないものの新たに生じた症状に対して診療を行った」場合の「初診料」の設定も同時に行った。要するに、テレビ電話のみならず電話だけで、受診歴のない初診患者に診療を実施することも可能になった。

「受診中の患者に対して新たに別の症状についての診断・処方が行われた場合」の「電話再診料」(73点)の算定も可能に。これらについては、全て処方料(42点)、処方箋料(68点)が算定できることも付け加えておく。



イメージし難い「初診」歯科オンライン診療

この他、歯科診療においても時限的に初診のオンライン診療(185点)が容認された。そもそも、歯科診療は口腔を通じての患者との濃厚接触抜きには成立しない領域であり、他の診療科と比較しても歯科医師や歯科衛生士等への感染リスクが高いことは容易に想像がつく。4月から5月にかけて感染拡大が顕在化した自治体等では、歯科医院の休診や診療縮小が目立ち、緊急性も余りないことから、治療中断を余儀なくされた患者も少なくなかったと思われる。

しかし、初診の歯科オンライン診療で「何ができるのか?」は、極めてイメージし難い。いくつかの歯科医院に電話でヒアリングしても、初診オンラインを実施する意思のある歯科医師は皆無だった。一方で外来診療を縮小し、治療を希望する患者に訪問歯科診療へとシフトする歯科医院はいくつか存在した。おそらく、外来診療でのクラスター発生リスクを踏まえてのことと思われる。

都市部で3年前に開業した某歯科医院院長は「正直、開業に伴う借入金の返済に追われており、休診が長引くと収入がなく、テナント料、人件費等の固定費がかさむばかりで、近い将来廃業を余儀なくされるのは目に見えている」と苦境を語る。現在、かかりつけ歯科医師として訪問歯科診療を継続しながら、緊急事態宣言の解除を受けて6月1日から外来診療を再開する構え。過当競争が激しく医科と比較して、総じて保険点数の低い歯科医院の窮状は切実だ。

この他、2020年4月以降、オンライン診療を実施する医師は現行「厚生労働省の指針に基づきオンライン診療の研修を受講しなければならない」とされていたが、医療保険における時限的・特例的な取り扱いの継続している間は、当該研修を受講していない医師がオンライン診療や、電話・情報通信機器を用いた診療を継続しても構わない。

また、当該期間、「1か月当たりの全体の算定回数の再診料等(電話再診は除く)及びオンライン診療料(71点)の占める割合が10%以下」との施設基準は時限的対応として適用されない。初診からのオンライン診療が容認されると、患者は受診のために医療機関に来院しなくても良いが、医療機関への医療費支払いは、銀行振り込み、クレジット決済、その他、電子決済等の支払いでも認められる。

(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)

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