再拡大で上昇する新型コロナ病床利用率の影響は?
新規感染者が全国で急拡大 軽症者用の療養室が不足
7月末から8月初旬までの間に、国内の新型コロナウイルス・新規感染者が急拡大の兆しを見せている。7月31日、新たに1,574人が確認され、1日の感染者の最多を更新したニュースに驚いていると、翌8月1日には1,535人の同感染者を確認。国内新規感染者が1,000人を超えるのは4日連続だ。深刻なのは東京や大阪等の大都市で、東京は8月1日で472人となり、3日連続で過去最多を更新した。同日、大阪では195人、愛知で181人、福岡で121人と報告された。
感染者が激増する大都市・自治体首長らは頻繁に記者会見を開いたり、テレビ出演等で繰り返しているが、発言の内容は当該自治体の対策強化の取り組みPRや一般論で終始し、正直、独自性のある感染対策には乏しい。逆に「不言実行」型の地方都市等の知事の方が、感染者数の抑制には結果を出している。感染爆発が現実のものとなるこの時期、自治体首長らに求められるのは「情報発信」よりも「結果」であるのは間違いない。
同時に医療体制ひっ迫が懸念される状況下、厚生労働省は7月29日時点の全国「新型コロナウイルス関連の病床利用率」集計を発表、全国紙に報道された。同日までの1週間で当該病床利用率が39都道府県で上昇したことが明らかになり、多くの新聞で「コロナ病床使用率急上昇」、「病床確保へ募る危機感」との見出しを見て、驚いた国民も多かったと思われる。
しかし、これは正直、驚くに当たらない。各地でPCR検査件数が増え、陽性患者数が急増すれば新型コロナ入院患者数が増えるのは当然のこと。都市部・指定感染症医療機関の某ICD(Infection Control Doctor・感染制御医)は次のように指摘する。
「今回の新型コロナ感染急拡大は軽症者、無症状者を中心としたものであり、現実、重症者用のベッドは必ずしもひっ迫している状況ではありません。コロナ患者に関し人工呼吸器やECMOの使用件数も6月頃と比較すると横ばいで、重症者用のベッドはほとんど70~80歳代を中心とする高齢の患者で占められています。逆に軽症者が急増したことで、中等症患者用で準備したベッドに軽症者が入院する傾向も見えてきました。当院では軽症者であってもCT検査等をすると肺炎が見つかるケースもあるので、中等症患者用の病床に入院して頂き、アビガン等を投与し、重症化を防ぐ取り組みを行っています。勿論、油断することなく、今後、重症者用ベッドが不足する事態も想定して、私たちは感染対策強化に注力するつもりです」。
感染対策に熟練した医療スタッフを抱える医療現場では、マスコミの過熱報道に一喜一憂することなく、冷静に対応する姿勢が伺える。また、新型コロナ問題を当初から追いかけてきた新聞記者等からは、東京等、関東近辺では感染が一時的に収束したとされた6月頃、自治体が軽症者用に準備したビジネスホテル等のコロナ専用療養施設との契約を打ち切ったとの情報を得た。
しかし、現在では改めて契約を再開し、ホテル等の療養室は従来通りに稼働し始めているようだ。この短期間の契約解除に対して都知事の対応を批判する声も一部にはあったが、それこそ「木を見て森を見ず」の議論で、都の対応が間違っているとは思わない。緊急事態においても効率性は大事であり、とりわけ病院病床については無計画にコロナ専用病床を増やしても、余裕があるとは思えない医療スタッフを重点配置しなければならないことから、他の急性期病床の円滑な運用に支障をきたすことにもなりかねない。実際に7月後半以降、感染者がこれ程に急増するとは、誰もが予想しなかっただろう。
一方、感染制御に大変な作業量を要することと、陽性者受け入れによる風評被害もあって、確かに一部のホテルの中には、通常の観光を中心とした業務に戻したいとの動きはあるようだ。「GoToキャンペーン」がその動きに影響したかどうかは分からないが、各地域の医療機関の感染者受け入れ体制に影響するだけに、検証する余地はあるだろう。
大都市に限らず滋賀、静岡、沖縄等でも病床利用率30%超
さて前出の病床利用率に話を戻すと、7月29日時点で全国の新型コロナ入院患者数は4,034人で1週間前の22日よりも1,290人増加。8都府県では病床利用率が30%を超えた。病床利用率の高い順では、(1)大阪42.5% (2)埼玉40.4%(3)愛知39.0%(4)東京37.9%(5)福岡37.3%(6)滋賀36.9%(7)沖縄36.6%(8)静岡31.5%(9)和歌山29.3% (10)京都27.4%の順。東京近辺では人口が多い自治体にも係わらず、同利用率を一桁台で抑えている神奈川7.3%の善戦が目立つ。ちなみに、20%超えは(11)岐阜25.1%(12)兵庫22.7%(13)熊本22.0%(14)千葉21.9%(15)栃木21.4% (16)宮崎20.8%(17)鹿児島20.6%。
この結果は意外なもので、1週間前と比較すると急激に入院患者数の増えた大阪や滋賀、愛知、沖縄等が顕著に高くなっている。病院・介護施設等でクラスターが発生した自治体は一気に病床利用率が上昇し、医療体制がひっ迫するリスクを抱えている。入院患者数がほぼ倍増し、11位に跳ね上がった岐阜県は31日独自の「第2波非常事態宣言」を発出した。また、テレビ報道等で感染爆発が指摘される東京都は、3,300床の病床が準備されていることから、第4位だ。
病床利用率の低い順では1%以下の自治体も多く、(1)岩手0.0%(2)青森・大分0.6%(3)山形0.7%(4)秋田・鳥取0.9%(5)富山1.0%の順。当然のことだが、感染者数の少ない東北各県が目立つが、人口と比較して病床数の多い四国4県及び山口等は4%以下で、多くの感染者数を出している北海道でも7.9%と必ずしも高くはない。報道等で感染拡大が指摘された千葉等も21.9%で1週間前21.6%と大きくは変わらない。
今後、予断を許さないのは事実だが、本当にマスコミが指摘する「医療崩壊」の状況に陥っているのだろうか?例えば政府が「緊急事態宣言」を発出した4月段階では、8都府県で病床利用率が80%を超え、正に医療体制がひっ迫していた状況にあった。
その点で、国内で感染者が4万人を超えたとは言え、7月末段階では重症者数は、比較的落ちついてきているのが実態ではないだろうか。「病床利用率」の推移をどう評価するのかは、非常に難しいが、軽症者用の療養病室、中等症用の病床、重症者用の病床、加えて疑似症患者用の入院スペース等に分類し、個別に検証しなければその実相は見え難い。その後、8月7日に厚生労働省が示した資料によると、8月4日時点の病床利用率は5都県で40%を超え、特に複数の飲食店等でクラスターの発生した沖縄は80%超となり、重症患者向けの病床も20%が埋まり予断を許さない状況になってきた。
筆者は7月27日に180床の新型コロナ・中等症患者専用プレハブ臨時病棟を開設した(医)沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院を取材する機会を得た。当該病棟では既に先行して精神科患者及び透析患者専用の個室病床を配備していた。
実際に精神科病院の入院患者及び、透析医療機関で治療を受けていた患者等が、新型コロナを発症した場合、当該医療機関等で入院医療や治療を継続するのが難しくなる。そうした事態を見据えての対応ではあるが、今後は新型コロナ感染症を合併する特定疾患の患者が、適切な治療を受けられる個別対応の体制整備も求められる。
そして、「20%~30%」台の病床利用率で中長期的に安定した病院経営を維持するのは、民間医療機関には不可能な話。公的な財政措置のある国公立病院等は別として、新型コロナ患者を受け入れる病床・病棟等を導入する民間病院に対しては、政策医療として国や自治体が速やかに財政支援を拡充すべきなのは言うまでもない。
(医療ジャーナリスト 冨井 淑夫)